『ミス・ラモツエの事件簿』シリーズ  アレグザンダー・マコール・スミス=著 、小林浩子=訳

紹介:丸山 淳子

ボツワナ。この国は、日本ではほとんどなじみがない。「ボツワナに行くの」「ああ、あの紛争があったところ?」「うーん、それはたぶんボスニア・・・」という会話を、私は何回したことか。ちなみにボツワナは、独立以来、一度も紛争を経験したことなどない。

当然、日本語でボツワナについて書かれたものといえば、せいぜい旅行案内か学術書だけ。・・・と思っていたら、ボツワナを舞台にした探偵シリーズが、日本でも人気を博しているという。日本語では「ミス・ラモツエの事件簿」と題されたこのシリーズ。世界各地でもベストセラーになり、ボツワナの本屋さんには、必ず、このシリーズの特設コーナーが設けられている。著者はジンバブエ生まれのスコットランド人で、ボツワナ経験も長い。シリーズは今も続いていて、今年、11作目が出版される予定だ。日本では4作目までが翻訳されている。

主人公は、ボツワナ人女性、マ(ミス)・ラモツエ。ボツワナで唯一の女性探偵で、首都ハボローネに探偵事務所を開いている。彼女のところには、浮気の捜査や行方不明者の捜索など、いろいろな問題が持ちこまれる。そんなに忙しい探偵事務所ではないが、どういうわけだか、話題には事欠かない。

ああ、この感じ。本書を読み進めると、一気に、ボツワナのあの空気感、手触りが襲ってくる。広々とした空に映えるアカシアの木々。ここは、確かに私が歩き回ったあの国だ。ときどきうっとうしいまでお節介ぶり。ふとしたときに感じる礼儀正しさとプライド。マ・ラモツエにも、探偵事務所で働く秘書(後に探偵助手になる)にも、婚約者の自動車整備工にも、私はボツワナで会っている気がする。

事件はかならず解決する。といっても、これはネタ晴らしではない。なぜなら、解決に至るまでの道のりと、横道にそれた、というにはおもしろすぎる登場人物の数々の物語が、このシリーズの魅力だからだ。そして、次第にわかってくる。事件が、いつも八方丸く解決するのは、この充分に優秀な女性探偵、マ・ラモツエの腕によるものだけでは、たぶんない。ボツワナという土地とそこに暮らす人々が培ってきた解決力が織りなされ、「きっとなんとかなる」という圧倒的な安心感がもたらされているのだ。

アフリカを危険だとか、紛争ばかりだとか、一度でも思ったことのある人は、この本を読むべきだ。アフリカに暮らす人びとの「普通の生活」の豊かさと、そこに秘められた解決力のすばらしさに、心を揺さぶられるだろう。もちろん、で、結局、ボツワナって、どこだっけ?って思ったアナタも。