映画『海は燃えている:イタリア最南端の小さな島』ジャンフランコ・ロージ監督、2016年、イタリア・フランス

紹介:真城 百華

本作は、イタリア最南端の島である地中海のランペドゥーサ島における島の人々の生活とその島にたどり着く難民船を扱った映画である。地中海を渡る難民といえば、最近のシリア難民を思い浮かべる人が多いだろう。また、イタリアの島の映画になぜアフリカがかかわるのだろうと不思議に思う人もいるだろう。だが、リビアから地中海を渡りイタリアにたどり着く船には多くのアフリカからの難民が乗船しており、その移動は20年以上にわたって続いている。リビアから出航する船に乗船している人々は、北アフリカ出身者だけではなく、その大半はナイジェリアやマリなど西アフリカやソマリアやエリトリアなどの東アフリカ出身者である。西アフリカや東アフリカなど1000キロ以上離れた地域から陸路で地中海沿岸部にたどり着き、そこで多額の料金を支払って違法な船に乗り込んでヨーロッパ渡航を目指すアフリカ出身の人々が大勢いる。

本映画では、こうした人々が乗り込んだ船が到達するランペドゥーサ島における人々の生活とたどり着く難民たちの姿が対比されるように映し出されている。牧歌的な島の生活とは正反対に、たどり着く難民たちを取り巻く環境は厳しい。数日間、船倉に閉じ込められていたために健康状態を悪化させた人、命を落とした人も多数いる。映画ではランペドゥーサ島にたどり着いた難民船の状況が詳細に映し出されている。ブローカーの手配する船は、高額な乗船料にもかかわらず、安全を保障する装備が完備されておらず、人々は命がけで船に乗り込む。

同海域で起きた最も悲惨な事故もこの映画で扱うランペドゥーサ島付近で2013年10月3日に生じた。同事故ではアフリカからの人々を乗せた船が火災事故を起こし368名が命を落とし、地中海における1回の事故の被害としては最大の死者を出し世界中の関心を集めることとなった。こうした深刻な事故が起こったにもかかわらず、地中海を渡る人の移動は止まらない。

大量の難民が押し寄せるヨーロッパでは、人道的立場から難民を受け入れてはきたものの経済的負担や内政を理由に難民の受け入れに批判的な声は毎年強くなっている。EUやEU内の各国が難民送出し国や難民が移動する複数の国に対してその流出抑止を狙って支援や協議を重ねてきた。しかし事態は深刻さを増しており、2018年6月にイタリア政府は、地中海を渡る難民を救助したヨーロッパのNGOの救助船がイタリアの港を利用することに加え、難民の受け入れ拒否を表明した。地中海難民をめぐる状況はさらに厳しい局面を迎えている。

地中海だけをみていると地中海を渡る難民、受け入れ国/拒否する国、難民を救助する支援団体に関心が集まるが、その裏側でなぜアフリカの内陸部から人々は命の危険を冒してヨーロッパにたどり着こうとするのか、それぞれの出身地はどんな経済状態、政治環境にあるのか、という点にも目を向けてほしい。経済的動機や政治的理由、様々な理由で人々はアフリカからの脱出を目指す。彼/彼女らを難民申請の正当な理由はなく、経済移民だと批判する人もいる。

だが、出身国にいられない深刻な政治課題や内戦、治安の悪化、経済格差を抱えている国があるのも事実である。私が調査している国も小国でありながら、毎年多くの地中海難民を生み出している。難民が流出する原因について難民支援を行う国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)も特別報告書を出し、さらには国連人権委員会も同国の内政について厳しい見解を示している。知人の中には、まさに地中海をこえてヨーロッパに渡ったものもいる。彼から無事に到着したと連絡を受けたときには、ほっとすると同時に、彼が直面しなくてはいけなかった過酷な環境を思わずにはいられなかった。

家族や友人と別れ、母国を離れなくてはいけない人たち。日本から遠く離れたアフリカのどこかにそんな人がいる、と突き放すことができるだろうか。地中海を渡る人々が抱える経済格差や政治的問題は私たちとは関係ない問題なのだろうか。

余暇にくつろいでみることができる映画ではないかもしれない。ただ、「問題」として難民を捉えるのではなく、映画に映し出される島の牧歌的な生活と同じように自分の出身地で家族とともに生活したかった人たちが、なぜ過酷な運命に身を投じることを決断しなくてはいけなかったのか、少しアフリカに思いをはせながらご覧いただきたい。

DVD情報

「海は燃えている:イタリア最南端の小さな島」
ジャンフランコ・ロージ監督
2016年 イタリア/フランス 114分 DVD
販売元: ポニーキャニオン
DVD発売日 2017/08/02

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。