映画『名もなきアフリカの地で』

紹介:藤本 麻里子

今回は、2003年にアカデミー賞最優秀外国語映画賞を受賞した名作映画のおすすめです。タイトルは『名もなきアフリカの地で』、英題は“Nowhere in Africa”です。私自身、アカデミー賞受賞作品だとは知らずに、「アフリカ」という単語が目に入り、何気なくレンタルショップで手に取った作品でした。

ナチスの迫害から逃れるため、やむを得ずアフリカの地に渡ったドイツ人一家の物語。ドイツの上流階級育ちで、アフリカの過酷な環境に適応できない妻、仕事がうまくいかずに苦悩する夫、夫婦の絆が壊れそうになりながらも、見知らぬアフリカの地で新たな生活を模索する夫婦。そんな夫婦の10歳の一人娘は、過酷な環境やあまりの生活環境が母国と異なる日常に辟易する母親とは対照的に、アフリカ人の料理人と親密になり、やがて現地の習慣や文化を積極的に受け入れていきます。同年代のアフリカ人の子どもたちとの交流を通じ、何色にも染まっていない純粋な心で現地の文化を吸収していきます。この娘の成長の様子とともに、異なる文化や習慣を対等に描き出そうとする姿勢がよく現れた映画です。新天地で必死に生きる一家の姿に感動するとともに、人々の運命を翻弄する戦争の残酷さも再認識できる映画といえます。

時折、欧米の映画作品の中で描かれるアフリカ像には首をかしげる部分を発見することも残念ながらありますが、この作品はむしろ、異文化への敬意や差異を受け入れることの大切さが作品を通して感じられます。この点もアカデミー賞受賞につながった要因ではないかと感じました。ナチス迫害や戦争の恐ろしさ、アフリカの美しい風景、夫婦の絆、子どもの成長、異文化との出会い、あらゆる要素が凝縮されているため、141分とい時間も決して長くは感じさせません。受賞のことに触れはしたものの、そのことは一旦忘れていただいて無色透明の先入観無き心で、静かに鑑賞していただきたい映画です。

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。