映画『女を修理する男』 ティエリー・ミッシェル監督、2015年、ベルギー

原題:L’homme qui répare les femmes: la colère d’Hippocrate)

紹介:松浦 直毅

コンゴ民主共和国東部が長らく紛争状態にあり、国際社会による介入にもかかわらず、その状況が依然として改善されていないことをご存じの方は多いだろう。しかしながら、そうした紛争によって、その地域に暮らす人々、とりわけ女性や子どもたちがどれほどの困難に直面し、想像を絶する辛苦を味わっているのかは、十分に知られていないのではないか。

映画『女を修理する男』(原題:L’homme qui répare les femmes: la colère d’Hippocrate)は、コンゴ東部の紛争下における性暴力の被害者を献身的に支えてきた婦人科医デニ・ムクウェゲ氏の苦闘を描いたドキュメンタリーである。この作品で私たちは、紛争下でふつうの人々が直面している過酷な現実をまざまざと見せられ、この悲劇が「紛争鉱物《をめぐるグローバル経済と結びついた組織的対立によってもたらされていることを思い知らされる。性暴力は、たんなる性的欲求ではなく組織的な「武器《として用いられているのであり、それによって老若男女を問わず、数えきれない人々が身体と心に一生癒えない深い傷を負っているのである。残虐な暴力についての証言、深刻な被害にあった年端のいかない少女が治療を受ける場面、そして、被害者となったことで地域社会から孤立し、一生苦しみを背負って生きていかざるをえない人々の姿に、胸をつまらせずにはいられない。

そうした絶望的な状況のなか、当局から睨まれて暗殺未遂にまであいながら、被害者を懸命に助けようと奮闘しているムクウェゲ医師の姿に、私たちは一筋の希望を見出すだろう。ムクウェゲ医師は、現地に病院を設立してこれまでに4万人以上のレイプ被害者を治療し、世界各地で女性の人権尊重と問題の解決を訴えてきた功績から、国連人権賞やサハロフ賞などを受賞し、ノーベル平和賞受賞者の有力候補にも挙がっている。しかしながら、そうした国際的評価に頼るまでもなく、コンゴを離れていた彼の帰還を熱烈に迎える被害者女性たちの姿をみるだけで、いやむしろ、そこにこそ彼が果たした功績の大きさを感じることができる。本作品で凄惨な被害を見るにつけ、私は悲しみと絶望の涙を流さずにはいられなかったが、その一方で、ムクウェゲ医師の力強さと優しさに感動と希望の涙もあふれてきた。

本作品は、2016年度に「コンゴの性暴力と紛争を考える会 《(代表・米川正子氏)が中心となって、全国各地の大学や団体において上映会が実施されたが、残念ながら一連の上映会は終了しており、一般公開や日本語版DVDの発売もまだなされていない(フランス語版 は一般発売されている)。現在、同会が中心になって日本語版DVDの制作準備を進めているとのことで、ぜひみなさんにも本作品に関心をもち、日本語版の完成を応援してもらいたいと考えて、ここでご紹介した。多くの方々が、いまこのときもコンゴ東部の人々が直面している悲惨な現状について広く知るとともに、困難に立ち向かうムクウェゲ氏の姿から勇気と情熱をもらうことができるようになるのを強く願っている。

*本記事掲載後、日本語版DVDが作成されました。ぜひご覧ください。