中部アフリカの熱帯雨林には、ピグミーと呼ばれる狩猟採集民が暮らしている。森と強く結びついた生活を送り、森に根ざした文化をもつかれらは、「森の民The Forest People」と称されてきた。しかしながら、ピグミーの生活と社会は、定住化政策、貨幣経済の浸透、伐採事業や自然保護政策の影響などによって、20世期以降に大きく変容してきた。また、それにともなって、長きにわたって共生関係を築いてきた近隣農耕民との関係も変化している。
本書は、ガボン南部のバボンゴ・ピグミーを対象に、このような変容に直面しているピグミーのすがたを描いた民族誌である。バボンゴ社会が歴史的過程のなかでどのように変容し、現在どのような状況にあるかを検討することによって明らかになったのは、森とのむすびつきを保ち、森で培われた能力を駆使しながら、変化に柔軟に対応して生きる、「現代の森の民」のあり方であった。
本書を執筆するにあたって、私にはふたつの動機があった。ひとつは、博士論文の段階ではまとまっていなかったバボンゴの民族誌を書きあげることであり、もうひとつは、それを通じてできるだけ多くの人たちに、フィールドワークの醍醐味と、自分が出会ったバボンゴの人びとの生き生きとした魅力を伝えることであった。本書によってそれがどこまで達成できたかはわからないが、これからもバボンゴの友人たちと向き合い、対話を重ねながら、かれらの生き方を見つめ続けていきたいと思う。
はじめに —しなやかに現在を生きる
第1章 変容するアフリカ狩猟採集社会
第2章 定住化した暮らし
第3章 訪問活動からみる社会
第4章 農耕民との民族関係
第5章 儀礼の世界
第6章 歴史と現在
終章 現代の〈森の民〉、バボンゴ・ピグミー
書籍情報
出版社:昭和堂
定価:5400円+税
発行:2012年3月
A5版/264頁
ISBN 978-4812211717