『コンゴ・森と河をつなぐ―人類学者と地域住民がめざす開発と保全の両立』 松浦直毅・山口亮太・高村伸吾・木村大治(編)

紹介:松浦直毅

 アフリックの事業の一環としておこなわれたコンゴ民主共和国(DRC)における水上輸送プロジェクトについて、2018年~2019年に約1年にわたってウェブ上で連載したエッセイで紹介してきたが、この連載をもとにした書籍がこのほど刊行されることとなった。
本書が掲げる大きなテーマは、アフリック会員である私(松浦)、山口亮太、高村伸吾の3人がおこなった水上輸送の実践例にもとづいて、地域開発と森林保全の両立について考えるというものである。「開発」と「保全」はもともと相対立するものであり、その両立は容易ではない。とりわけDRCのように政治経済的に不安定な国においてはきわめて困難な課題である。しかしながら、地域住民と長く親密につきあい、地域社会と切っても切れない関係にある私たちフィールドワーカーが、地域住民と二人三脚となって取り組めば、そうした課題を克服できるのではないかと私たちは考える。そして私たちは、期間限定で目的志向的な従来の開発事業のあり方を見直し、研究と実践は別ものであるという発想を転換して、試行錯誤と軌道修正を重ねながら研究と実践が一体となった事業を進めてきた。このような考え方は、ひとえにアフリックでの活動を通じて着想したものであり、その意味で私にとって本書は、アフリックの事業を紹介するものであるとともに、アフリックで学んだことをかたちにしたものでもある。
もうひとつ、アフリックでの活動を通じて私たちが身につけたのは、現地の人々に共感し、その生きざまを前向きにとらえて多くの人に伝えるという姿勢である。とりわけDRCは、政情不安、エボラ出血熱といった暗い話題ばかりが流布しがちであるが、私たちが出会ってきたのは、そこで暮らす明るくたくましく人なつっこい「ふつうの人々」である。本書で私たちは、自分たちの思いや体験をできるかぎり軽やかに生き生きと描くことに努め、それによって、くみつくせないDRCの魅力をできるかぎり伝えることをめざした。私たち三人のほか、長年にわたってDRCで人類学的研究をおこない、私たちをDRCに導いてくれた木村大治さんを編者(コラム執筆者)にくわえ、さらにボノボ研究者2名と人類学者2名にもコラムを寄稿してもらうことで、プロジェクトの背景となるDRCの自然や文化の多様な側面を示している。本書を通じて、多くの人たちにDRCの新たな一面を知ってもらえれば幸いである。

 

目次(*はアフリック会員)

はじめに(松浦直毅*)

第I部 森の世界・河の世界
第1章 調査地までの長い道のり(松浦直毅*)
コラム1 ワンバ地域における人類学研究史(木村大治)
第2章 森に暮らす農耕民ボンガンド(山口亮太*)
コラム2 日常会話からみるボンガンドの社会(安本暁)
第3章 境界を越える(高村伸吾*)

第II部 森で生きる
第4章 地域開発のカギをにぎる住民組織(松浦直毅*)
コラム3 ボノボをめぐる保全の変遷(坂巻哲也)
第5章 ボンガンドの森の生活―食用イモムシ「ビンジョ」と蒸留酒「ロトコ」(山口亮太*)
コラム4 変わりゆくボンガンドとボノボの関係(横塚彩)
第6章 船旅に向けて(松浦直毅*)
コラム5 ボノボを追ってコンゴの森を歩く(徳山奈帆子)
第7章 魚の捕り方を一緒に考える(高村伸吾*)

第III部 森と河をつなぐ
第8章 波瀾万丈の船旅(松浦直毅*)
第9章 船旅に想う(山口亮太*)
第10章 荷を分け持つ(高村伸吾*)
コラム6 「森の道」を歩く(木村大治)
第11章 長い旅の果てに(松浦直毅*)
第12章 それぞれの一年後(山口亮太*)

おわりに(松浦直毅*)

出版社:明石書店
発売日:2020年3月15日
2300円+税/280頁
ISBN-10: 475034981X
ISBN-13: 978-4750349817