『お話は土の城のテラスで—西アフリカ・トーゴの昔話集』 和田正平=著

紹介:八塚 春名

この本は、人類学者である筆者が、1970年代後半から80年代にかけて、西アフリカのトーゴで集めた昔話を、小学生むけにまとめたもとです。トーゴのタンベルマという人びとは、2004年にユネスコ世界遺産にも登録された砦型住居に暮らしています。筆者はそれをお城のような住居だとして「土の城」と呼び、本書に登場する昔話のいくつかは、この「土の城」が舞台となっていたり、そこで語り継がれたりしてきたものです。

お話の多くは、まるで「まんが日本昔ばなし」を観ているようで、さまざまな教訓を含みます。動物が登場し、人と会話をしたり、人に化けたり、人に恩返しをしたりといったものも多く、これを「土の城」で身振り手振りを交えながら、まるでそこに動物がいるかのように生き生きと語ってきたんだろうと想像すると、わくわくします。筆者は「はじめに」にこんなふうに記しています。「昔話は、人びとのたのしみであり、夜のさびしさをわすれさせてくれる最良の方法です。昔話にはむらで暮らすための世界観、人生訓、処世訓などさまざまなメッセージがこめられています。」

アフリカの多くの言語は、もとは文字をもたないものでした。それは決してネガティブなことではなくて、「豊かな口承文芸の伝統があったからこそ、文字を必要としなかったのだといえるかもしれません(p.5)。」今日、わたしたちは文字をとおして、日本にいながらアフリカの昔話を読み知ることができます。しかし一方で、本書の昔話にみられる、タンベルマ人の強烈な想像力は、文字に頼らずに語り継がれてきたからこそ存在するのかもしれないと思い至るでしょう。

また、この本を読みながら、本やDVDやインターネットで日本の昔ばなしを探してみると、日本とアフリカの昔話における共通点も見つけられるかもしれません。おすすめです。

書誌情報

出版社:メディアランド
発行:201611月
単行本:198頁
定価:2,160円(税込)
ISBN: 9784904678817