アフリカの熱帯雨林を舞台に、ジャングルの奥深くを自在に行き来するゴリラのこどもと、自然の恵みにより添いながら村で暮らす人間の少年。 本書は、赤いぼうしをめぐって彼らの日常がたまさかに重なりあう、ある一日の物語である。
作者の山極寿一は、アフリカの熱帯雨林でゴリラの野外調査と保護活動を続けてきた著名な人類学者だ。長年にわたる研究のなかで覚えたゴリラ語を使って、ゴリラとの会話にも挑んでいるという。本書の物語も、なんと全体の約3分の1が、ゴリラ語で展開してゆく。私たちの知らない言葉で綴られたゴリラのコミュニケーション。だが心配はいらない。コンゴ民主共和国生まれのアーティスト、ダヴィッド・ビシームワの絵が、ゴリラのいる森の情景を生き生きと描き出し、ゴリラ語の内容まで鮮やかに伝えてくれる。ゴリラは躍動感にあふれ、息づかいまで感じられる。また、ゴリラに出会う少年の生活についても、村の畑や家、家族、食べ物、家具、雑貨にいたるまで細やかに書き込まれ、アフリカの「ふつうの暮らし」を知ることができる。熱帯雨林というひとつの空間に共存するゴリラと人間、どちらの気持ちになっても読めるオススメの絵本だ。
ところでこの絵本、巻末にゴリラ語解説とあわせて、ゴリラ語を交えた「ゴリラとあそぼう」の歌が付録されている。絵本を手に取ったら、ぜひ福音館書店のホームページをみて欲しい。山極氏が、非常に楽しそうにゴリラ語で歌っているのを聴くことができる。絵本をひらいて「グコグコ、グッコ、グッコ」。思いっきり歌えば、あなたの目の前にも深い森が現れるはず。