『山の上の火―エチオピアの昔話』 ハロルド・クーランダー,ウルフ・レスロー=著、渡辺茂男=訳

紹介:牛久 晴香

『山の上の火―エチオピアの昔話』はアメリカの文化人類学者で小説家でもあるハロルド・クーランダーと、ポーランド生まれのエチオピア言語学者であるウルフ・レスローが集めたエチオピアの昔話15編をまとめたものです。原著は1950年、日本語訳は1963年に出版され、現在まで版を重ねています。

それぞれの話には、身体は小さいけれど知恵で大きな動物を出し抜く野ウサギやサル、とんちで王様を翻弄する少年、威勢だけはいい臆病者など、魅力的なキャラクターがたくさん登場します。土方久功の素朴で温かみのある挿絵もお話に彩を添えてくれます。

この本に収められたお話のなかには日本の昔話と似た主題のお話もあれば、予想外の「オチ」を迎えるお話もあり、エチオピアの人びとの物事の捉え方や世界観を垣間見ることができます。何より魅力的なのは、ウィットの利いた会話のやりとりです。タイトルにもなっている「山の上の火」というお話のなかでは、賭けを持ちかけておきながら負けるや否や報償を出し渋るお金持ちを、知恵のある長老が諭す場面が描かれます。詳しくは読んでのお楽しみですが、婉曲的にみなが納得する論理でお金持ちを戒める長老や、その意味を察して誤りを素直に恥じるお金持ちの描写は、思慮深くつつましやかなエチオピアの人びとの一面をよく表しています。

小学生でも読めるように書かれた絵本ですが、それぞれのお話は色々な読み方ができるので大人にもおすすめできる一冊です。夏休みにお子さんと一緒に楽しんでみてはいかがでしょうか。

書誌情報

出版社:岩波書店
定価:1,900円(税別)
発行: 1963年7月
ページ数:158頁
ISBN: 4001103044

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。