『親指ピアノ道場!~アフリカの小さな楽器でひまつぶし~』サカキマンゴー=著

紹介:大石 高典

 

親指ピアノは、木などでできた共鳴箱に並べられた金属製の棒を指で弾いて演奏する楽器である。アフリカを旅していると、時々木の板や自転車のスポークなど身近な材料で作られた親指ピアノを目にすることができる。

この本の著者のサカキマンゴ―さんは、プロの親指ピアノ奏者である(本人の公式ウェブサイトのURL: https://sakakimango.com/j_index.html)。大阪外国語大学(現・大阪大学外国語学部)でスワヒリ語を学んでいた学部学生時代、親指ピアノの音や響きに惹かれて単身アフリカに渡航する。そして、世界的に有名なフクウェ・ザウォセという親指ピアノの奏者の家を訪ね、弟子入りを懇願する。禅問答のようなザウォセやその一門とのやりとりを重ねる中で、さわり音という親指ピアノ独特の「ノイズ」が作り出す音の共鳴や面白さに、さらにのめり込んでいく。

この本は、その後数十年にわたって日本とアフリカ各地を往き来しながら親指ピアノの世界を探求し続けている著者の中間報告のような内容になっている。親指ピアノは、日本や欧米では「カリンバ」の名前で有名だが、これは南アフリカでワールド・マーケットに向けて売り出された商品名が広く流布した結果で、地域ごとに名前がある。例えば、タンザニアではリンバ、コンゴ民主共和国ではリケンベ、ジンバブエではムビラ、ボツワナではデングーなどの呼び名がある。これらはそれぞれ別々の楽器で、形状や弾き方も少しずつ違っている。この本では、アフリカの国々に息づく、多様かつ個性ある親指ピアノと奏者たちの姿が体当たりのフィールドワークの経験をもとに生き生きと描かれている。

中間報告と書いたのは、この本が上梓された後もずっと、著者は自前で作り上げたエレキ親指ピアノを使った作品を次々に発表しており、また出身地の鹿児島の方言や民話の要素を取り入れた独自の音楽世界を開拓し続けているからである。

タイトルに「道場」と付いているように、この本は単なるアフリカ音楽の評論の本ではない。親指ピアノ演奏家としてアフリカ各地で道場破りの勢いでアフリカ音楽と向き合ってきた著者の肉声が綴られている。のみならず、卒業論文で親指ピアノの運指を紙に落として記録する方法を編み出した著者による親指ピアノの演奏法入門や、自分で親指ピアノを作りたい人向けの工作指南という付録まで付いている。著者の言うところの「ひまつぶし」の方法、すなわち生き方のヒントもたっぷり含まれている貴重な本である。残念ながら本書は絶版になってしまっていて古本でしか手に入らない。ぜひ復刊を期待したいのと、その後の探求についての続編を読んでみたい。

◆書誌情報:
ヤマハミュージックメディア
2009年
B6版
160頁
ISBN:978-4-636-84714-7

◆目次:
はじめに
第1章 タンザニアでリンバ修行
第2章 フィールド・ノート
第3章 机の上の親指ピアノ
第4章 親指ピアノ道場
第5章 親指ピアニストとして
付録① 親指ピアノの作り方
付録② 各地の親指ピアノの演奏方法
付録③ 親指ピアノ★ディスク・ガイド
あとがき
参考文献
索引