『森の小さな〈ハンター〉たち: 狩猟採集民の子どもの民族誌』 亀井伸孝=著

紹介:服部 志帆

本書は、カメルーン東南部に暮らす狩猟採集民バカ・ピグミーの子どもたちのところへ弟子入りして、遊びや狩猟採集など日常生活をともにした人類学者の一年半にわたる出会いの記録である。親が子どもを積極的に教育や訓練しない狩猟採集社会で、子どもたちが狩猟採集の技術と知恵をのびやかに身につけていく様子が描かれている。子どもとともに過ごし、子どもの視点から描かれた、「子どもが主役のエスノグラフィー(民族誌)」である。

著者は、子どもたちを「アフリカの密林の中をさっそうと駆け回る世界一かっこいい子どもたち」といい、みずからを「この小さな狩猟採集民に弟子入りして森の歩き方を教えてもらった世界一かっこわるい人類学者」という。トントントンと軽やかに森を歩く狩猟採集民バカ・ピグミーの子どもたちと、それになんとかついて行こうとする著者のドタドタドタという足音が聞こえてきそうな本である。著者と同じくカメルーンの森をフィールドとし、バカ・ピグミーを研究対象としてきた私も、森歩き、人々との関係づくり、調査において、さまざまな困難を経験した。若い感性で包み隠さずフィールドの現状を描いているこの本に、大いにシンパシーがわいた。しかし、それだけではない。著者とこの本には、他の人類学者や本にはみられない特徴がある。それは、エンターテイナーとしての心意気である。

本書のなかで、著者が子どもたちのリクエストにこたえ、当時のばしていた長髪をふり乱して森の精霊のごとく踊る様子がイラストとともに描かれている。ここに、この本のエッセンスが詰まっていると思う。学術書を豊富なエピソードと手書きのイラスト、そしてユーモアをまじえて読みやすくし、読者にしっかり楽しんでもらおうという姿勢が貫かれているのだ。著者の心配りによって出来上がった心やすきこの本を、研究者にとどまらず、すべての人々におすすめしたい。著者のふんする精霊ノブウが、読者をアフリカの森の世界へいざない、森の子どもたちの日常をじっくりと教えてくれるだろう。

(目次より)
人類学者、森の子どもたちに弟子入りする
狩猟採集民の子どもたち
子どもたちの仲間に入る
森の遊びとおもちゃの文化
小さな狩猟採集民
子どもたちのコスモロジー
子どもたちをとりまく時代
狩猟採集社会における子どもの社会化
狩猟採集民の子どもたちの未来
フィールドで絵を描こう ほか

書誌情報

単行本:306頁
出版社: 京都大学学術出版会
ISBN 978-4-87698-782-5
定価: 3,400円 (税別)
発行日: 2010年2月20日