『現代アフリカ社会と国際関係―国際社会学の地平―』小倉充夫(編)

紹介:眞城 百華

本書は、国際社会学、国際関係学に立脚したアフリカ研究の一連の成果となる7論文からなる。小倉充夫による序では、本書が「国際関係の歴史的および地域的展開を踏まえて、アフリカにおける主要な現代的課題を国際的な関係性、地域の重層性、あるいは国民国家枠組みの相対化という観点から明らかにする」ことが狙いであると説明される。また、「アフリカにはそもそも近現代社会の矛盾が集約してあらわれ」、「アフリカを論ずることにより、取り上げる時期の国際関係と世界の構造が照射されるとともに、国際関係が地域ごとに特徴的な形態を示すことも明らかになる」と指摘する。

小倉充夫による長年にわたるザンビア農村調査にもとづいた「変化する都市住民の特徴と青年層」、アフリカにおける国民国家形成についてザンビアを中心に取り上げた「多民族国家における言語・民族集団と国民形成」、ジンバブエを扱った「植民地支配と現代の暴力」、の3論文では異なる国やテーマを扱っているにもかかわらず、序章で示された理念が通底している。特にジンバブエを扱った「植民地支配と現代の暴力」では、近年のメディアにおけるジンバブエ批判とは一線を画した、ジンバブエとイギリスの関係、ジンバブエと南部アフリカ政治の観点が示されている。また、独立後のアフリカ国家の困難と課題、解放闘争史の再考を迫る視点は、他のアフリカの独立後の国家運営にも再検討を迫る。

網中昭世「国家・社会と移民労働者」では、南アフリカ鉱山におけるストライキの研究を通じて、経済のみならず鉱山労働ならびに鉱山労働、移民労働者を取り巻く社会や政治にも言及した。ルワンダを扱った船田クラーセンさやか「『解放の時代』におけるナショナリズムと国民国家の課題」では、パン・アフリカニズムとルワンダにおけるナショナリズムが呼応し、また時に反発する様相を50年代のルワンダ政治の分析から明らかにした。

エチオピア、エリトリアを扱った眞城「民族の分断と地域再編」では、植民地支配、脱植民地化、エチオピアの拡張主義、冷戦という政治の展開によりエチオピア、エリトリア両国に居住する民族が変容を迫られ、その後二つの国家建設を志向する過程が論じられる。ポストアパルトヘイト期の南アにおけるジェンダー平等の受容をアパルトヘイト下の女性運動と結びつけて明らかにしたモニカ・セハス「南アフリカにおける女性と市民権」は、南アのみならずジェンダーの視点からアフリカ政治、社会変容を再考する意味を再び喚起する。

アフリカにおける政治はまだ未解明な部分も多く、大きな政治の動きに翻弄されるアフリカの人々のイメージが強い。本書ではあえて国際関係とアフリカ社会を射程として大きな時代の流れに翻弄されながらも、アフリカの民族が、労働者が、女性が、政治家たちが、人々が主体的に国家や社会を構築しようとした足跡を示している。

目次
序章 現代アフリカと国際関係――課題と方法
第1章 民族の分断と地域再編――ティグライから見たエチオピアとエリトリアの100年
第2章 「解放の時代」におけるナショナリズムと国民国家の課題――ルワンダを事例として
第3章 植民地支配と現代の暴力
第4章 国家・社会と移民労働者――南アフリカ鉱山における労働者の協調と分断
第5章 南アフリカにおける女性と市民権
第6章 変化する都市住民の特性と青年層
第7章 多民族国家における言語・民族集団と国家形成

書籍情報

出版社: 有信堂高文社 (2012/11/30)
定価:3,675円
単行本: 238ページ
ISBN-10: 4842065834
ISBN-13: 978-4842065830