『ブルキナファソを喰う!―アフリカ人類学者の西アフリカ「食」のガイドブック―』 清水貴夫=著

紹介:池邉 智基

本書は、西アフリカのブルキナファソをフィールドに研究をしている人類学者が、ブルキナファソの食の魅力を余すところなく書き連ねた本である。副題に「食のガイドブック」とあるように、ブルキナファソの食文化とレストラン情報などが豊富に詰め込まれている。

本書の構成は、そのままブルキナファソの魅力を「喰う」ように読み進められるようになっている。「食前酒」として、著者がアフリカと出会うまでの過程をプロローグに、そして「前菜」では研究を通じて出会ったブルキナファソの人たちや、著者が行ってきた調査について描かれる。この「食前酒」と「前菜」ですでにお腹いっぱいになりそうなところで、ブルキナファソのご飯たちの紹介「メインディッシュ」が進む。メインは三部に分かれており、第一部「ファースト・ディッシュ」は“練粥”に始まり、第二部「セカンド・ディッシュ」に“コメ料理”、そして第三部「サード・ディッシュ」にマメ料理や肉、コーヒー、野菜類などの料理の紹介がある。それぞれの「メインディッシュ」の間には「食間酒」として、人類学者の著者の研究活動や日常の備忘録が付されている。

「メインディッシュ」を少しだけ紹介しよう。ブルキナファソは西アフリカの内陸国であり、その国土には乾燥帯、乾燥サバンナ、湿潤サバンナという三つの気候帯を擁している。収穫される作物がそれぞれの気候帯によっても違うため、主食の原料も地域によって異なる。ファースト・ディッシュで紹介される練粥は、メイズ(トウモロコシ)やプランテンバナナ、キャッサバなどで作られたモチのような見た目の料理だ。アフリカ各地でこのような練粥は見られ、例えばケニアなどでは「ウガリ」と呼ばれている。ブルキナファソでは練粥は「ト」と呼ばれており、同様にメイズで作られたものが多いようだが、ソルガムやミレットなどで作られたものが「伝統的」らしい。それらの原料の違いは市場での販売価格が影響しているだけでなく、雨量など気候条件の違いともリンクしている。それでもやはり家庭によって、レストランによって、食感やソースの味付けに違いが出るのがまた面白い。他にもスンバラという納豆のような香りの調味料、多種多様なコメ料理、野菜や野草を使ったソース、魚の干物や燻製、酒なども本書で描かれている。著者は豪快に食べながらも、丁寧にそれぞれの味付け、香り、レストランの情報などを事細かに説明すると同時に、農村の生活や流通、都市の人びとの生活などの話題もふんだんに散りばめている。

アフリカをフィールドに調査・研究していれば、自ずとその土地の料理に詳しくなってくるものだ。とはいえ、その全体像を掴むには、食への強い関心と強靭な胃袋を兼ね備えていなくてはならない。本書の冒頭にあるように「食からさかのぼれば、村の生活のこと、農業のこと、経済のこと、すべてにつながっていくから、その国や社会の全体像が見えてくるはずだ(p. 37)」とある。たしかに食のない文化などない。皿に盛られたもののひとつひとつを見て、嗅いで、味わっていくだけで見えてくることはたくさんある。また、食べることは著者にとって「人よりも強い胃を持ち、食べることが好きな僕の生来の能力が最も発揮できそうな領域(p. 37)」とある。本書の内容、レシピ、写真などを見れば、食への飽くなき探究心だけでなく、大食漢であることを自負する著者だからこそ、ここまで多くの情報を得られたことがわかるだろう。

メインディッシュの濃厚な記述を読み進めていけば、ブルキナファソに足を運んでみたいという気持ちになるだろう。そんな読者の好奇心(と胃袋)をしっかり掴んだところで、「デザート」として、ブルキナファソ基本情報や歴史、航空会社の運行状況、旅の必需品、さらに本書で紹介されたレストランの地図までが載っている。最後までサービス精神旺盛な構成である。ブルキナファソは多くの人にとっては馴染みの薄い国かもしれないが、本書の豪勢なフルコースを通じて、西アフリカの文化を味わうように読んでいただきたい。

書誌情報

出版社:あいり出版
発行:2019年
単行本:288頁
定価:1800円(+税)
ISBN-13:978-4865550665