暴力の被害を受けた学生の支援をはじめました

 

ある日NGOのスタッフは近所で仕立屋を営む女性から相談を受けました。彼女は近親から性的暴力を受けて家に帰れない十七歳の少女を預かっていたのですが、その子に仕立屋か髪結いの職業訓練を受けさせてもらえないか、というものでした。

 

詳しく話を聞いたところ、アデル(仮名)というその少女は幼い時に父親を亡くし、母親と村で一緒に暮らしていました。しかし、四歳の時にオジに引き取られコトヌーに住むことになったそうです。アデルを学校に通わせてくれるという約束でしたが、オジはそれを守らないばかりか、アデルに性的な暴力をふるうようになります。

アデルは訪ねて来た母親に頼み、逃げ出すように村に帰りました。その後、アデルは母親の知人の女性に預けられ、学校にも通わせてもらいましたが、中学校二年生になった時に再び母親の元に戻り一緒に住むようになりました。アデルはそこで高校二年生まで暮らしましたが、母親と再婚した義父が、母親がいない隙に頭を掴んでキスなどをするようになりました。それを母親に訴えると、アデルは家から出されることになってしまいました。

アデルの母親が学校の先生にアデルの行き先を相談したところ、その先生は自分が借りている長屋の大家に相談しました。その大家が、冒頭に登場した仕立屋の女性です。仕立屋の彼女は、アデルを自分の家に住まわせてあげることにしました。しかし、学校に行くための経済援助をするまでの余裕はないため、アデルに無料で職業訓練をさせてあげられないかと仕立屋は私たちのNGOに相談に来たのでした。

 

NGOはその経緯を周囲に確認した後、スタッフがアデルと話しました。私たちとしては、彼女が望むのであれば、職業訓練を受けさせてあげたいと思いました。しかし、実際にアデルと話すと、職業訓練を受けるよりも、高校を卒業するまで学校に通い続けたいと言いました。アデルの母親や彼女を保護していた仕立屋の女性は、アデルの学校での成績が芳しくないことや、学校に出ても仕事に結びつかないベナンの現状から判断し、職業訓練を受けて欲しいと思っていたようですが、NGOとしてはアデルの意志を尊重するべきだと思いました。

通学支援はこれまでわたしたちのNGOで行っている活動ではありません。しかし、アデルの立場は暴力を受けてきたという意味でも、経済的困窮という意味でも、明らかに支援されるべきものです。そこでスタッフで話し合ったところ、もし彼女が学校に行きたいのならば、本や文房具、リュックといった学校用品を購入する支援をすることにしました。ただし、勉強をしてもらわなければ困るので、高校を修了して最初のバカロレア(高等学校教育の修了試験)を受けるまでの二年間の支援だという約束をしました。

 

ベナンでは、少女や女性に対する性的虐待や性的暴力が、学校でも頻繁に起こっているようです。実際、アデルも行く先々で性的な被害に遭ってきました。アデルに仕立屋の女性を紹介した学校の先生でさえ、彼女に性的関係を迫ったそうです。アデルはそれを断りましたが、仕立屋の息子からも関係を迫られたことがあり、その時は居候の立場上仕方なく応じたとも言っていました。それを聞いて、NGOはすぐに引っ越すように勧めました。現在アデルは高校の同級生の家に住まわせてもらっているそうです。アデルはNGOにも時々顔を見せに来ており、施設で学校の勉強の復習をしているそうです。

性的暴力の問題は、日本にもある根深い問題で、一朝一夕に解決できることではありません。できることは限られていますが、私たちのNGOもベナンの地域社会の一員として、少女や女性が安心して生活できる環境作りに少しでも貢献していきたいと思っています。