ソコニイルカプロジェクトでは、困難な立場にある女性に対して小規模の貸付を実施しています。元々の事業には入っていなかったこの事業を始めた背景には、暴力を受けた女性についての支援や、困難な状況にいる少女に対する職業訓練について、NGO職員が村を回って告知を行った際に、多くの女性から貸付に対する要望がよせられたことがあります。
希望する人が多いため、NGOとしては困窮する女性に対して優先的に貸し付けていますが、貸付を受ける女性が抱える事情として多いのは、夫と別れて子どもの面倒を自分だけでみなければいけないというものです。これはもちろんどの社会にも起こり得ますが、ベナンでは特に頻繁に起こっているように感じます。NGOはベナンの福祉センターと連携して活動していますが、福祉センターで最も多い相談も、離婚した夫が養育費を払ってくれないというものだと職員が語っていました。こうした問題が起こる理由としては、ベナンの婚姻事情が関係しています。
アフリカの多くの社会同様、ベナンも元々は一夫多妻制が根付いており、現在は法律的には一夫一妻制をとりますが、慣習としては一夫多妻が残っています。複数の妻をもつまでいかなくとも、婚外の愛人を持つことが男性には文化的に許されることが多いです。
日本では法律婚は一般的ですが、ベナンでは市役所に届け出を出す法律婚を選ぶ人は実は多くありません。理由としては、法律婚が妻の相続権を認めていることが大きいようです。ベナンでは元々、夫が亡くなった場合妻には相続権がなく、子どもや夫の兄弟に相続させる文化のあるところが多かったため、法律婚には特に夫やその家族から難色を示される傾向があるのです。そのため公務員で法律婚に税金の支払いなどでメリットがある場合を除き、わざわざ法律婚をしようとする夫婦は多くないようです。
多くの人は「伝統婚」と呼ばれる慣習的な方法で婚姻します。つまり日本の結納にあたる婚資を婿や婿の家族が、嫁の親族に渡すことを含む、様々な儀礼を経ることで結婚するのです。「宗教婚」と呼ばれるキリスト教などに則った婚姻儀礼を行う人もいますが、それは「伝統婚」を行った後に行うことが多いようです。「伝統婚」では、夫が亡くなった場合、妻を夫の兄弟と結婚させる地域も多くあります。
最近は「伝統婚」も先のばしにしながら一緒に住み子どもを設けるカップルが多くいます。男性側に婚資を支払う余裕がないことが主な理由ですが、都市化が進みコミュニティによるプレッシャーが弱まっていることも関係するでしょう。
こうしたことが複合的に組み合わさった結果、男性が妻と子の養育責任を放棄しやくなっています。また、夫が亡くなった後に夫の兄弟と結婚することを拒むと夫側の家族から養育のための支援などを得られなくなるといったことも起こっています。ベナンの女性は何らかの商いをしていることがほとんどですが、やはり男性の方が一家の稼ぎ手として期待されることが多く、特に子供の養育費に夫の支援が得られないと一気に生活が困窮してしまいます。そうした女性たちが、何とか自分や子どもの状況を改善するために、商売の規模を少しでも大きくしたいとNGOの門戸を叩いているのです。
結婚やそれに関わる実践がいかに女性に不利であるとしても、文化的な価値観が強く関わるためにすぐに変えられる領域ではありません。また「不利」と判断する視点自体も、われわれの文化の価値体系を反映したものに過ぎない可能性もあるため、「変えるべき」という意見にも十分に慎重である必要があると考えます。しかし、婚姻が不安定である結果、生活が窮してしまい、それを自力で何とかしようと女性たちに対して、手を差しのべられる団体や個人でありたいとは願っています。