「アフリカ熱帯雨林の水棲動物相と漁労技術」(2011年11月17日 「自然環境と人間」)
2008年以来、ちょうど3年ぶりに「いまづ環境学講座」で授業をさせていただくことになりました。今回は、アフリカ熱帯雨林の水棲動物と人びとの関わりをテーマとしました。
熱帯雨林が卓越する中部アフリカでは、ブッシュ・ミートと呼ばれる野生獣肉とともに、魚類をはじめとする水棲動物資源が住民の貴重な蛋白源になってきました。近年、木材伐採会社の進出等により、都市だけでなく、農村部においても定住化に伴う局所的人口集中と食物需要の高まりが見られます。また自然保護の観点から、野生獣肉の利用が厳しく制限されるようになると、代わりの蛋白源として淡水魚があらためて注目を集めています。すなわち、コンゴ川水系のあちこちで、地元住民が営んできた伝統的な小規模漁労に加え、出稼ぎ漁民による商業漁労が活発化しています。しかし、これまで内水面漁労の持続性については十分に議論されてきませんでした。
ブッシュ・ミート問題とセットとも言えるブッシュ・フィッシュ問題、すなわち淡水魚類を保全しつつ、増大する都市住民からのタンパク質需要をどう満たしてゆくかが課題になっています。国際機関や食料安全保障に取り組むNGOは、熱帯雨林地域でも積極的に養殖漁業を普及させようとしていますが、果たしてそれで解決になるでしょうか。
授業では、熱帯雨林の住民による小規模漁労の事例として、掻い出し漁を取り上げ、映像を交えて紹介しました。伝統的な小規模漁労の多くは、魚に関する詳細な生態学的な知識の上に成り立っています。また、いくつかの漁法は女性や子供が元手なしに参与しやすいことから、社会的弱者による貴重な現金収入源のひとつにもなっています。
スライドで紹介したジャー川のナマズ類、コイ類をはじめとする淡水魚の少なからぬ種類が、東南アジアや東アジアの魚と近い類縁関係にあります。われわれの棲む日本もまた、モンスーン・アジアに連なっています。現代の都市化した日本では、淡水魚と人々の関わりはすっかり希薄化してしまったけれども、身近な淡水魚利用の文化は、かつて兵庫県を含む日本各地に残っていたことに触れて、授業を終わりました。
授業の中では触れられませんでしたが、カメルーンの熱帯雨林地域からは、食用以外に、観賞用として生きたままの淡水魚輸出が行われています。水族館やペットショップで、アフリカ原産の「熱帯魚」を見る機会があったら、かれらの故郷には、観賞魚としてではない人と魚の多様なつき合いがあることに思いをしていただける方が一人でも増えたらなと願っています。