第29回アフリカ先生「兵庫県立西宮今津高校」報告

「世界の大型類人猿の危機的現状:野生チンパンジーの研究から」
(2008年11月6日)

藤本 麻里子

兵庫県立西宮今津高校で開催された「いまづ環境学公開講座2008」の第2回目を、11月6日(木)に担当しました。チンパンジーは日本各地の動物園、テレビのバラエティ番組など、目にする機会が比較的多いためチンパンジー自体の認知度は講義前から高かったです。しかし、大型類人猿という言葉はあまり聞いたことがない生徒さんが大半で、事前アンケートで「大型類人猿4種の種名を知っている限り書いてください」とお願いしましたが、ほとんど認知されていませんでした。そして、それら4種、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンが絶滅の危機に瀕しているという事実もほとんど認知されていませんでした。そこで、世界の大型類人猿が絶滅の危機に瀕している現状について、主に私の研究対象であるチンパンジーを中心にお話しました。チンパンジー、ボノボ、ゴリラなどアフリカの大型類人猿が絶滅の危機に瀕している直接的な理由には、病気の流行による個体数の減少、ブッシュミートとしての狩猟、商業目的による狩猟、生息地である森林の減少などがあると話しました。また、大型類人猿を食用にするブッシュミート問題は、ヒトに近縁な大型類人猿を食べるのは良くないという感情的な批判では、日本人の捕鯨に反対する欧米の人々の主張と何ら違いがなく、説得力に欠けることを説明しました。その上で、政情不安による戦災者や難民が、森の中でブッシュミートに頼らざるを得ない状況の改善が必要であることを述べました。貧困や政情不安もまた、大型類人猿を脅かす間接的な原因であることを理解してもらえるように説明しました。

また、ヒトとチンパンジー、ボノボ、ゴリラは近縁であるが故に病気の相互感染の問題があり、エボラ出血熱などを例に、ブッシュミートの別の問題点も指摘しました。実際の野生チンパンジーの映像を生徒さんにたくさん見てもらったことで、より深く理解してもらえたのではないかと思いますし、事後アンケートでもそのような回答が多数見られました。映像では、チンパンジーがアカコロブスを狩猟して食べている映像や、病気で死亡した赤ん坊を死後も肌身離さず持ち歩く母親チンパンジーの様子などを見てもらいました。これらの行動は、比較的一般の人々にも認知されているかなと思っていたのですが、多くの生徒さんから驚きの声が上がり、講義後の感想にも、それらの映像でチンパンジーのイメージが変わったという声をたくさんいただきました。また、大型類人猿の絶滅を回避するために私たちが出来ること、すべきことを最後に考えてもらいましたが、多くの生徒さんが「チンパンジーの商業目的の利用をやめる」や「政情不安を解消することが大事」などと回答してくれました。中には、「大型類人猿の研究や保護活動をしている研究者を支援する」ことが自分たちに出来ることだとの回答もあり、嬉しく感じました。高校生たちがチンパンジーにどんなイメージを抱き、チンパンジーのどんな部分が認知されていないのかなどが把握でき、チンパンジーの研究者として私自身も多くのことを学ぶ良い経験になりました。