第72回アフリカ先生「いまづ環境学公開講座」(兵庫県立西宮今津高校)報告

「チンパンジーの食育:母は子に食べ物を分け与えて当然?」(2012年10月29日)

藤本 麻里子

2012年10月29日(月)に兵庫県立西宮今津高校でアフリカ先生の授業させていただきました。私が担当したのは2限目の『自然環境と人間』の講義で、チンパンジーの子育てについてお話しました。10名の生徒さん、2名の先生方に参加していただきました。

我々ヒトの子育てにおいては、赤ちゃんが離乳食を始めると、あれこれ思案して様々な離乳食を準備し、もちろん母親や周囲の大人が赤ちゃんに食べさせてあげます。子どもの成長に応じて、様々な食べ物が食べられるようになってくると、さらに多様な食物を子どもに積極的に与えていきます。ところが、チンパンジーをはじめ多くの霊長類では、母親が子どもに積極的に食べ物を分け与えるということがあまりありません。場合によっては子どもの手から食べ物を取り上げてしまうこともしばしば観察されます。

授業では実際に私自身が撮影した、野生のチンパンジーの映像をいくつか紹介しながら、食べ物をめぐる母と子のやりとりについてお話しました。お母さんが美味しそうな食べ物を持っていて、子どもが近くに来て手を伸ばしてもなかなか分けてあげない。そんな映像に対して、生徒さんたちは不思議そうな表情を浮かべながら熱心に見入ってくれていました。

我々ヒトとチンパンジーでは他者とのかかわり方、コミュニケーションの方法や様式異なります。チンパンジーでは母子間でも、そしてオトナの個体の間でも食物の分配が積極的には起こりません。分配が見られるのは、食べ物を持っていない個体が、持っている個体の手や口に直接手を伸ばして取ろうとし、持っている個体がそれを許容するという消極的な分配がほとんどです。

人類の進化を考える点においても、家族や群れのメンバーと食べ物を分け合うかどうか、という食物分配という行動は大変重要である点に触れ、授業を締めくくりました。生徒さんたちには、お母さんが子どもに熱心に食べ物を与えるヒトの子育てと、消極的にしか食べ物を与えないチンパンジーという意外な違いについて理解してもらえたことと思っています。