『チンパンジーは365日ベッドを作る—眠りの人類進化論』  座馬耕一郎=著

紹介:桐越 仁美

ヒトに最も近いといわれる霊長類チンパンジーは、いったいどんな夜を過ごしているのか?本書はこの素朴な疑問をスタート地点として、チンパンジーの眠りの世界からヒトの眠りの歴史まで、深く掘り下げていく。「チンパンジーのベッドにはそんな秘密が!?」とその先を知りたくなってしまう探偵小説のような面白さがあり、一気に読みたくなってしまう。研究者の調査・分析結果をもとに専門知識を交えて書かれているにもかかわらず、柔らかな文章でとても楽しく、現地でチンパンジーを目の前に話を聞いているような新鮮さをもって読み進めることができる。

本のタイトルにもあるように、チンパンジーは毎日ベッドを作る。ヒトのように毎日家に帰って寝るのではなく、森のなかを歩き回り、夕方になるとそこにある木の上にベッドを作って寝る。チンパンジーの人生が50年として、ベッドを自分で作るようになる5歳から45年間、毎日ベッドを作るとすると、一生のあいだに1万6000個以上のベッドを作る計算になるのだという。チンパンジーはまさに「ベッド職人」なのだ。そのチンパンジーの眠りから、ヒトの心地よい眠りを考えるのが本書の目的だ。

著者である座馬さんは、タンザニアのマハレ山塊国立公園でチンパンジーとシラミの関係を明らかにするため、1999年から調査を始めた。ある日ベッドに残されたチンパンジーの抜け毛を拾い集めるため、チンパンジーが樹上に作ったベッドによじのぼったのだが、どうしてもそのベッドに寝てみたくなってしまい、寝転がったのがすべての始まりだった。そのとき寝転がったチンパンジーのベッドが「ものすごく気持ちのいいベッド」だったのだ。

それから座馬さんはチンパンジーのベッドの魅力にとりつかれてしまう。ベッドを作るときに使われた枝の長さや葉の枚数・面積を枝一本一本について調べ、一晩中チンパンジーの寝相や行動を観察し、詳細なデータからチンパンジーのベッドに隠された秘密、さらに私たちの眠りの原点を徐々に解き明かしていく。その過程がとても痛快だ。

本書の魅力はその痛快さだけではない。チンパンジーたちが、とにかく可愛いのだ。まず、巻頭のカラー写真がとても可愛い。さらに座馬さんの文章によって描かれるチンパンジーたちは生き生きと読者の脳裏にあらわれ、ぐっすり眠り、ときに動き回る。無防備で可愛い姿をイメージして、クスッと笑ってしまったりする。

子どもにもオススメの一冊。本屋さんで見かけたら、ぜひ手にとって可愛いチンパンジーたちを見てほしい。

書誌情報

出版社:ポプラ社
発行:2016/3/1
単行本:203頁