『地球ボランティア紀行 野生動物保護の現場へ』 ヒュー・パックストン/パックストン美登利 共著

紹介: 安田 章人

この本は、私が「野生動物を護りたい」と思い始めた高校生のころに、手にとった本です。すでに10年以上前の本となってしまいましたが、「海外で野生動物保護関係の仕事や研究をしたい」と夢見ている若い世代に読んでほしいと思い紹介します。

著者であるヒュー・パックストンは、88年に来日し、高校や大学で教鞭をとったあと、フリーランスライターとして活躍。自然保護関係の著書や記事の投稿をおこなっている。もう一人の著者、パックストン美登利も、環境問題をあつかう記者として活躍後、国連機関の職員として、ソマリア、タンザニアで勤務した。と、ここまでは巻末にあった著者の経歴ですが、その後、美登利さんは野生動物ボランティア基金(WVF: Wildlife Volunteer Fund)という団体をたちあげ、私も高校生・大学のころに所属していました。人づての話によると、パックストン夫妻は、現在はナミビアのウィントフックで、ナミビア環境観光省で働いているそうです。

さて、本の内容についてですが、まず、1章から9章まで、夫妻が世界9カ国(ジンバブエ、イングランド、南アフリカ、ポーランド、グアテマラ、フィリピン、ニュージーランド、タイ、スコットランド)で参加した、野生動物保護に関するボランティア活動と、それに従事する人々の姿について書いています。1章では、ジンバブエのクロサイの保護と研究に携わる研究者に同行した様子が、生き生きと描かれていると同時に、武装した密猟団や角を漢方薬の原料とするアジア諸国に対する批判が書かれています。

そのほかの9つの章や10章に書かれた野生生物保護についての著者らの考えからもわかるように、著者らは、狩猟や捕鯨などによる野生動物の消費的利用を是としない、野生動物「保護」の立場にあります。「野生動物を護りたい」と純粋に思っていた高校生のころの私は、違和感を覚えませんでしたが、野生動物保護の現場にある様々な事情(地域住民の生業や経済活動など)があることを知った今では、改めて読むと考えさせられました。

最後の11章では、ボランティアに参加したいと考えた読者に向けて、ボランティアの心構えや参加可能な団体の情報について書かれています。団体の情報については、もう情報が古くなってしまったかもしれませんが、名前を手がかりにインターネットで情報を集めるきっかけにはなるでしょう。野生動物保護に対する価値観や主義はいろいろにしろ、やはり現場に行くことから始めるべきだと思います。ちなみに、私もこの本をきっかけに、メキシコでアライグマやアナグマの個体数調査ボランティアをしました。野生動物保護関係の仕事や研究に携わりたい人にとって、この本が道を切り拓くための一助になればと思います。

  • 第1章 28番の後ろ足
  • 第2章 イングランド最後のイヌワシ
  • 第3章 ワニは美しい
  • 第4章 ボロ自転車とオオカミ
  • 第5章 卵をめぐる砂浜の戦い
  • 第6章 海の熱帯雨林
  • 第7章 アオテアロアのカカポ
  • 第8章 孤独な川
  • 第9章 個人の欲と共有地の悲劇
  • 第10章 野生生物保護について
  • 第11章 国際野生生物保護ボランティア入門

書誌情報

単行本: 292ページ
出版社: ダイヤモンド社 (1997/12)
ISBN-10: 4478870691
ISBN-13: 978-4478870693
発売日: 1997/12