『HIDDEN GIANTS 知られざる森のゾウ-コンゴ盆地に棲息するマルミミゾウ-』ステファン・ブレイク(著) 西原智昭(訳)

紹介:林 耕次

和名では「マルミミゾウ」という,実に愛らしい名をもつゾウがいます。 アフリカ熱帯地域に棲息するこのゾウは,長らく「幻のゾウ」といわれてきました。英名のAfrican forest elephantが示すとおり,この森林性のアフリカゾウの生態はほとんど知られていなかったのです。そんな「幻のゾウ」についてまとまった一冊が,昨年,日本語版として刊行されました。

書名があらわすとおり,知られざるマルミミゾウの系譜や,詳細な生態が前半でまとめられていますが,後半は現代的な課題,すなわち,マルミミゾウの棲息域の喪失や密猟による絶滅の危機について重きが置かれています。

本書は,「アフリカ中央部での保護地域ネットワーク(RAPAC)」や「野生生物保全協会(WCS)」などによる,長期にわたる活動の成果でもあります。日本語版の翻訳は,WCSのコンゴ共和国支部で自然環境保全・技術顧問を務めている西原智昭さんがされており,巻末には西原さんによる「マルミミゾウと日本人」という興味深い論考が掲載されています。われわれ日本人に馴染みの文化とマルミミゾウが,まさか,このような関係にあったとは・・・,と驚くことでしょう。

全編を通じての詳細な資料や多彩な写真はもちろんのこと,アフリカ熱帯雨林における“キー・スピーシーズ”(鍵の種)であるマルミミゾウを深く知り,また,アフリカ熱帯雨林地域における野生動物の密猟・絶滅・保全の現実を知るうえでもお奨めしたい一冊です。

  • 目次
  • 第1章 マルミミゾウは何ものであり,どこから来たのか?
  • 第2章 マルミミゾウはどこに棲息し,何頭いるのか?
  • 第3章 熱帯林のエンジニア
  • 第4章 巨人の食するもの
  • 第5章 マルミミゾウの社会
  • 第6章 マルミミゾウの移動
  • 第7章 象牙の魅力
  • 第8章 知られざる虐殺
  • 第9章 危機に瀕しているマルミミゾウ
  • 第10章 保全への戦略
  • (巻末)マルミミゾウと日本人 (翻訳者 西原智昭)

書籍情報

発行所:現代図書,販売元:星雲社
定価:2381円+税
発行:2012年4月
寸法:25.8 x 18.6 x 1.4 cm・96頁
ISBN-10: 443416564X
ISBN-13: 978-4434165641

ちなみに,山口県の「秋吉台自然動物公園サファリランド」には,世界でも珍しいマルミミゾウ(2頭)の生体展示がされており,公園内のサバンナゾウ合わせて2種類のアフリカゾウを観覧することができます。本書を持参して,観察に行かれるのもオススメです!

なお,今回紹介した本の翻訳をされている西原さんの講演会が,近く予定されているので案内いたします。

『中部アフリカ研究会 (西原智昭氏講演)』
日時: 2013年4月1日 15:00-17:00
会場: 京都大学稲盛財団記念館3F 318号室
演者: 西原智昭氏 (WCS [Wildlife Conservation Society] コンゴ共和国支部、 Ndokiランドスケープ・自然環境保全技術顧問) http://www.arsvi.com/w/nt10.htm
演題: 「コンゴ共和国北部熱帯林地域からの話題提供-先住民の森と野生動物が消失して行く現実-」
※主催者より;「どなたでも参加していただけます。関心のある方はぜひご来聴ください。」

また,西原さん監修・コーディネートをつとめたテレビ番組も近く放送予定とのことで,興味のある方はどうぞご覧くださいませ。
『THE世界遺産』「サンガ川流域の森林地帯~世界で唯一の湿地バイ」 ‎
日時:3月31日(日)、TBS系列18時~
※西原さんが長年関わるコンゴ共和国・Ndokiの森を含む地域が、2012年7月に世界自然遺産登録されました。