アフリカゾウ基金「ハッピーハニー・チャレンジ」導入までの道のり

岩井雪乃(セレンゲティ・人と動物プロジェクト 担当)

ゾウ被害の深刻化

「セレンゲティ・人と動物プロジェクト」(セレプロ)の活動地、タンザニアのセレンゲティ国立公園に隣接する地域では、2000年ごろから公園から出てくるゾウによる農作物被害が拡大してきました。畑に侵入するゾウの数は増える一方で、初めは1頭2頭だったのが、近年では200頭もの大群が押し寄せるようになっています。そして今年2012年になってからは、畑のみならず、人家にある穀物庫までゾウが襲うようになりました。これまでも、畑でゾウを追払おうとした村人が、逆に襲われて命を落とす事件が毎年起こってきました。ゾウが人家まで接近してくると、食糧が奪われるのはもちろん、人身被害の拡大も心配です。

2012年10月20日タンザニアの新聞Mwananchi。ゾウに穀物庫を襲われた家を国会議員が訪問した記事が、カラー写真入りで大きく報道された。タンザニアの政府としても、深刻な問題ととらえている。

ミツバチの可能性にかける「ハッピーハニー・チャレンジ」

セレンゲティ地域のロバンダ村では、セレプロの姉妹プロジェクトとして、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターのプロジェクト「エコミュニティ・タンザニア」が、車を導入してゾウを追払う活動をしてきました。しかし、車の運用には多額の資金が必要です。ガソリン代、運転手給料、壊れた時の修理費など年間100万円近くかかります。こんなに高額な対策を実施することは、観光ホテルからの収入のあるロバンダ村では可能ですが、他の村ではできません。セレプロでは、もっと安価に実施できる対策はないかと調査を進めてきました。その結果「ミツバチロープがケニアで成功している」という報告を見つけました。それは、イギリス人研究者が創設したNGO・Save the elephantsの女性研究者キング博士が開発したものでした(詳細はこちら)。

King著 Beehive fence construction manual 2011年より。

ゾウはミツバチの羽音を嫌がるといわれています。ミツバチの羽音をきくとあわてて逃げだし、さらにその時にゴロゴロと鳴きながら、他のゾウたちにもミツバチがいることを伝える習性があるそうです。これを応用して、畑の周りに養蜂箱をつるしてハチを飼ってゾウを追払うのです。うまくいけば、ハチミツから収入を得ることもできるという、一石二鳥の対策です。

この手法について現地NGOのSEDERECと相談すると、「ぜひ試してみたい。何もしないで作物を食べられ続けるよりも、できる対策に挑戦したい!」とのことでした。藁にもすがりたい現地の気持ちが感じられました。こうして「ハッピーハニー・チャレンジ」をスタートすることにしました。

ケニア研修(2012年2月)

セレプロが資金を提供して、3名の農家代表がケニアに研修に行き、ミツバチロープの設置方法を学んできました。

ケニア村びと(左)がセレンゲティ村びと(右)に解説する

ポールの設置(2012年5月)

研修でミツバチロープの可能性を感じた村びとは、帰ってきて、さっそく資金獲得に動き出しました。近くで営業するグルメッティホテルが養蜂箱を半額負担してくれることになりました。もう半額は、セレプロが支援することにしました。資金の目途がついたので、村びとたちは、はりきってポールの建設を始めました。

養蜂箱の設置(2012年9月)

しかし、グルメッティから「待った」がかかってしまいました。理由は不明ですが、先方の事情ですぐには養蜂箱の援助ができないというのです。日本にいる私たちも「もうお金を送ったのにどうなっているんだ?」とやきもきしましたが、9月になって、ようやくグルメッティが動きだし、養蜂箱100個が設置されました!

待望の養蜂箱が到着!車が入れるところまで運ぶ

ここから先は頭にのせて

事前に話し合って決めた場所に設置

直射日光が養蜂箱にあたるとハチが定着しないので、屋根をつける

わらの屋根を設置して完成!

ニャセローリ地区農民グループは、毎週会議を開いて、設置場所や管理作業の計画について話し合う。
集会所がないので、大きな木の下が会議室。

村人のチャレンジを応援してください!

今、人びとのチャレンジが始まったところです。すでに、ゾウが養蜂箱に近づいて方向転換して保護区に帰って行った事例が数件報告されています。養蜂箱を段階的に増やしながら、どれほどゾウを追い払えるか、期待したようにはちみつがとれるか、検証しながら進めていくことになります。ゾウと共存していくために、ぜひアフリカゾウ基金「ハッピーハニー・チャレンジ」への支援をお願いします!

ABOUTこの記事をかいた人

日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。