タンザニア北西部・カマチュム植林プロジェクト 2004年度活動報告

プロジェクト責任者:丸尾 聡

責任者紹介
丸尾は1997年以来、この植林活動がおこなわれているタンザニア・カゲラ州の農村にのべ一年以上にわたり滞在しました。農耕システムや農村経済について調査をして行くうちに、この地域の自然環境が数十年という短期間のうちに大きく変わってきたことを知りました。そして、そのような変化を真剣に受け止め行動に移そうとしている地域の人びとと出会うことができました。

地域農民が設立した環境クラブの活動を支援

昨年度、アフリック・アフリカではタンザニアで開始されているひとつの植林プロジェクトに対して400USドルの支援をおこないました。このプロジェクトは、現地の農民グループである環境クラブ発展計画組織(MCDSO; Mazingira Club Development Scheme Organization)が1998年から開始したもので、自然環境の劣化を防ぐことによって地域住民の貧困の削減や生活水準の向上に寄与することを目的としています。

今日のカマチュム郡の景観

MCDSOは会の代表者であるムクラシ氏をはじめ6名のメンバーを中心に活動している小さな団体ですが、これまでに4万本以上の苗木を生産し、地域の学校や住民に無償もしくは安価で提供しています。また、現在NGOとしての登録を政府に申請している段階です。

MCDSOが活動するタンザニア北西部カゲラ州カマチュム郡は、標高約1400m、年間降雨量が約1500mmの地理的条件にあり、タンザニア国内でも比較的高い農業生産(バナナやコーヒー等)のポテンシャルをもっています。しかしながら近年の人口増加によって、重要な燃料である薪炭材の需要も大きく伸び、かつては村落の周辺にも多く生育していた樹木が減少している現実があります。現地の言語であるハヤ語には森を示す’kibila’という言葉がありますが、滞在中にそのような言葉を聞く機会はほとんどない状況です。村びとに尋ねても、薪の確保にむかしよりも多くの時間が必要だという声が多く聞かれます。ただ、そのような現状にあっても「(樹木作物ではない一般の)木を植える」という感覚を持ち合わせている人は少ないため、徐々に遠くになる薪材探しが日常的に続けられています。

MCDSOの植林活動

ムクラシ氏は人一倍、この現実に対する危機感をもっており、「木を植える」活動を自ら進めながら、「地域の住民がその大切さを感じてくれるようにしたい、そして、とくに村長や学校の先生といった影響力をもつ人びとには現在の危機的な状況を理解してほしい」と言います。この彼の言葉が逆説的に、カマチュム郡の現状を端的に示しています。小学校への植林を彼らが積極的に進めてきていますが、そのような背景があるからでしょう。郡内のある小学校の敷地には、1998年から植えられ始めたという木々が2000本以上育っています。MCDSOでは、今後、セミナーの開催などを通じて植林の大切さを地域の人びとに伝えていく予定にしているとのことです。

小学校の敷地に育つ松の若木

ムクラシ氏自身は現在カマチュムで小さなキオスクを経営する「兼業農民」ですが、かつてはカゲラ州の環境部に勤めていた役人で、その当時に州内で見聞していたことが今日の活動のきっかけとなりました。彼は活動的であるだけではなく、植林に関する情報を積極的に得る勉強家でもあります。このプロジェクトで採用している樹種は、いずれも中米原産のカリビアマツ(Pinus carribea)やパツラマツ(P. patula)といったマツ科の外来種が中心です。かつて郡内にミッションの働きかけでユーカリが植林されていましたが、生育の早いユーカリが逆に土壌の劣化をもたらすとして、植林地の環境に適したこれらのマツを選んでいるそうです。ムクラシ氏は地形や土壌の条件から植林地に適した苗木を選別するだけでなく、苗木の生産にも気を遣い、苗木の栽培に適した土壌を遠方まで探しに行ったりもしています。

植林を待つ苗

プロジェクト開始以来、植林は着実に広がっているわけですが、問題がないわけではありません。苗木を移植してうまく根付かせるには半年程度は適切な水遣りや除草が必要です。活動に賛同している人でなければ、管理をいいかげんにしてしまうこともあり、とくに活動初期には失敗が多くあったそうです。また、植林地が増えてきた最近では、移植したばかりの苗木の盗難にも悩まされているとのこと。近隣に住む若者が盗むことが多いらしいですが、村内に植えられているのを見つけることもあり、ムクラシ氏曰く「警察沙汰にはしなかったけど、ちゃんと木の大切さについてお説教してあげたよ」。

当初はムクラシ氏をはじめとするメンバーの私財でプロジェクトは始められました。彼らのプロジェクトはまだまだゴールまでに長い時間がかかります。ある程度の「成功」が得られれば、地域住民はついて来てくれる。そのことをムクラシ氏たちは信じています。そのためにも、一歩ずつならぬ一本ずつ、木の意味を人びとに根付かせていくための試みが続けられていきます。私もそんな彼らの活動を今後も支援できる方法を、日本から考えていかなければと思っています。

MCDSO代表のムクラシ氏(プロジェクト植林地にて)

なお今回の支援に関して、ムクラシ氏からアフリック・アフリカのみなさんに心からの御礼を申し上げる旨の手紙が届いていることを付け加えておきます。

ABOUTこの記事をかいた人

日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。