「あなたの滞在する村のように、少ないおかずで暮らす人たちは、この辺りにとてもたくさんいるわ」 ザンビアのS町という、小さな田舎町に住む女性Lさんは、そう話し始めた。 Lさんは、現在、非常に小規模なローカルNGOの代表である。 彼女のNGOでは、2006年から,マイクロクレジットでS町近隣の農民を支援する活動をはじめた。
Lさんは、S町生まれの46歳である。700キロほど離れている首都近郊で中等教育をうけた後,農水省勤務の夫と結婚して、インターナショナルNGOに就職。その傍らで、S町との往来を繰り返してきた。 10年ほど前にS町で腰を落ち着けてからは、同じように地元へ戻ってきた女性たちと NGOを設立した。 そのNGOは現在もゆるやかに運営されているが、 農村女性に対するマイクロクレジットの重要性に目をつめた彼女は、 数人の仲間たちと、マイクロクレジット専門のNGOを新たに設立したのである。
彼女たちの活動資金は、これまで働いて培ってきた自分たちの財産である。 現在は、村々から手をあげた5人に対し、年間50ドル弱ずつ融資して, 収穫されたトウモロコシを買い上げ、翌年の融資の元手とするよう試みている. もちろん、この地域は天水農耕を行っているので、 天候に左右されることを承知の上での支援である。
なぜ、彼女が地元でのマイクロクレジットに目をつけたのか、と聞いた時、 はじめに彼女の口をついて出たのが、冒頭の台詞であった。 また、彼女は次のようにも言った。 「ザンビア政府は、国策として主食のトウモロコシ増産に融資してきた。 でも、このS町のような、小さな片田舎には、 どんな国策もドナーによる支援も、届かなかった。 だから、自分でやろうとおもった。 だって、このあたりの村の生活を知っているでしょう? そして、この地域には、自然資源だって人材だって、 たくさんの可能性が眠っていることも、わかるわよね。 とにかく、地元の人たちを支援することが、 ここで生まれ育った私の仕事だとおもっているし、 それがこの地域の将来に続く、希望なのよ。」
そんな彼女は、様々な雑事の合間をぬって、 自分が支援する人の住む村々を、自分の足で見にいく。 「計画して、お金をだして、村をみてまわらないのでは、 車で乗り付けて、会議だけして帰るドナーと同じじゃない。 『忙しい』、『時間がない』なんて言葉は、言い訳にはならないわ。 指導ばかりではなくて、人びとがどんな風に取り組もうとしているのか、 私達も学んでいく必要があるのに。 何よりも、現場を見ようとする『気持ち』が、 いつだってどこでだって、大切だと思うの。」
現在、S町やその付近の田舎町では、自分たちの資金を出し合い 村々での農業や教育、医療の支援活動を推進する人たちが、 着実に増えてきているといわれている。 そうして増加する,小さな希望にかける挑戦が、横浜で開催されるTICADIVならびにG8サミットをきっかけに、より多くの人びとに知られるようになれば、と思う。