服部 志帆
私が今滞在しているロンドンで、イギリス在住の日本人を対象に、アフリカ先生をやりました。下記の講演内容は、オーガナイザーの清水健さんのまとめをお借りしています。
[内容] 私がアフリカの狩猟採集民ピグミーに興味をもったのは1枚のCDがきっかけでした。大学で新聞学を学んでいた私は、3年生のときに聴いたピグミーのポリフォニー(多声音楽)に魅了され、ピグミーの世界に一歩でも近づこうと大学院はアジア・アフリカ地域研究科のある京都大学に進みました。私は、2000年から10年にかけて7回、通算30か月もカメルーン共和国に滞在し、バカ・ピグミーの村人と暮らしを共にしました。ピグミーの村に飛び込んだ私は、村人たちの優しさにすっかり魅了されてしまいます。
ピグミーの特色は3つ。1.森林への強い依存 2.歌と踊りの文化 3.農耕民との相互依存関係があげられます。私の調査村も、113 人の狩猟採集民ピグミーだけでなく68人の焼畑農耕民も暮らしています。ピグミーの生活はあくまでその日暮らし。1日3、4時間くらい働くと、あとは歌と踊り、おしゃべりに興じています。ピグミーは20〜30人くらいの大家族が3、4つで集落を作っていますが、私を感動させたのは、彼らの徹底した平等主義、無頭制社会です。例えば、それぞれの家族が同じ獲物をえてきても、必ずそれを交換し合います。近年、世界を翻弄している強 欲資本主義とは対極の生き方に、私たちが失ったものを見い出せるかもしれません。
そしてピグミーのポリフォニー。4500年前の古代エジプト王ファラオも、ピグミーの合唱を聴きたいと使節を遣わせたほど、その歌声は多くの人たちを魅了してきました。ピアニストの松本さやかさんによると、ピグミーの合唱は、完璧な即興性、そしてポリフォニーという特色があるそうです。クラシックやジャズにも即興はありますが、ピグミーの合唱には意図的・恣意的なものが全く感じられません。西洋音楽はバッハ以降、複旋律のポリフォニーから 主旋律と伴奏という主従関係のホモフォニーへと移り変わっていきます。すべての旋律が平等なポリフォニーを合唱するピグミーに対し、自然を征服し主従関係を明白にする西洋近代文明。八百万の神と共生してきた日本の原風景は、ピグミーとの親和性が高そうです。
そんなピグミーの世界にも、1970年代から森林伐採など開発の波が押し寄せています。アフリックの一員として、わたしは森と人の共生する道を模索しています。その活動の一環として、7月9日(金)にロンドンでピアニストの松本さやかさんと共同のチャリティーイベントを計画しています。
[感想] 二水会は平日の夜だというのに、35名もの方が参加してくださりました。なかには、特急電車で一時間もかかるケントから電車に揺られてやってきてくださった人もいて、うれしかったです。参加者は、研究者や学生さん、ジャーナリストや翻訳家、お茶や踊りの先生、リタイヤされた方など、さまざまな職業や立場の方がいらっしゃいました。ピグミーの生活や文化の全般、教育の問題、開発と生活変容など、たくさんの質問をいただきました。とくに心に残ったのは、伐採や自然保護のために生活や文化の維持が困難になっているというピグミーの状況や日本における環境破壊に対して、研究者や活動家でない個人がどのように関わっていけるかという質問です。私なりに考えたい、イギリスから帰ったらアフリックでも議論を深めたいと思いました。