第74回アフリカ先生「いまづ環境学公開講座」(兵庫県立西宮今津高校)報告

「森の民バカ・ピグミーの土地問題」(2013年11月7日)

大石 高典

今回の授業には、3年生の生徒11名と北村先生が参加してくださいました。まとまった質疑応答の時間が取れませんでしたが、授業を進める中で積極的に参加者に質問を投げかけ、インタラクティブな授業になるように心がけました。

授業では、カメルーンの熱帯雨林に住んでいる森の民バカ・ピグミーが、現在直面している土地問題に焦点を当てました。最近アフリカ各地で最近活発になっている土地紛争では、協調的側面よりも対立的側面が目立ち、マイノリティや社会階層化により生じた「下位階級」の排除プロセスとして表面化しつつあるといわれています。広大な熱帯雨林が広がる中部アフリカの熱帯雨林地域も例外ではなく、この地域のマイノリティであるバカ・ピグミーたちもその波に巻き込まれています。

数千年、数万年という長い間、熱帯雨林はバカ・ピグミーをはじめとする狩猟採集民の生活の場であり続けてきました。熱帯雨林と共存し、その豊かな恵みを享受して生きる彼らは「森の民」とも呼ばれてきました。遠くから見ればただ黒々とした森も、一歩足を踏み入れれば明るいところ、暗いところ、見晴らしのきくところなど一様ではなく、たいへん変化に富んでいることがわかります。バカ・ピグミーは、そんな森の景観を、20以上もの民俗生態学的な概念をもちいて細やかに表現します。森は、空間として明確に区切られることなく、むしろどこまでも続いているものであるかのように表現されます。

しかし、外部者によって進められる森の開発や保全は、バカ・ピグミーの感覚からすれば「区切れない」はずの森に線引きをすることによって行われています。熱帯林伐採や自然保護といった国家的事業によって森の囲い込みが進むなか、バカ・ピグミーが生活基盤としてきた森そのものに自由に入れなくなるという事態が現実化しています。

その結果、移動しながら狩猟採集をおこなう生活は、しだいに見られなくなり、かわって集落に定住し、農耕活動や賃労働に精を出す人々が増えました。焼畑での主食となるプランテンバナナ栽培にくわえて、小規模ながら換金作物であるカカオ(チョコレートの原材料)栽培をおこなうバカ・ピグミーも増えています。市場経済にもそれなりに適応しているかに見えるバカ・ピグミーですが、カカオの市場価格が高騰すると、都市から押し寄せた人たちが、バカ・ピグミーが細々と維持してきたカカオ園はおろか、居住している土地まで買い占めようとする動きがでてきました。

このように、現在バカ・ピグミーは、さまざまな空間スケール(森/農地/定住集落/…)で、生活や文化のサバイバルに直結する土地問題に直面しています。いったいどんな解決法があり得るでしょうか。また、これらの問題は、地球環境問題へのわが国の関与や、チョコレート消費などを通じて、私たちと無関係ではありません。私たちには、どんな支援ができるでしょうか。そんな問いを発して授業を終えました。