紹介:丸山淳子
あぁ、アフリックで、こんな本を出したかった—本書を手にしたときの、正直な感想だ。アフリックでは、「アフリカ便り」と称して、会員のフィールドワーク経験に基づいたエッセイを掲載している。設立以来、毎月1本か2本のエッセイの掲載、それが20年以上続いてきたわけだから、けっこうな数に上る。数だけではなく、まったくもって自画自賛で恐縮だが、その質もいい。「アフリカ便り」を読んで、同じフィールドワーカーとして勇気づけられたり、発見があったり、涙ぐんだりしたことが何度もあるし、ひとりひとりのフィールドワークのありようが、いきいきと目に浮かぶ。だから、いつか、「アフリカ便り」をまとめて、こんな本を出したかったのだ。
実際、この本には、アフリックの会員の多くが「アフリカ便り」で鍛えられた力を存分に発揮し、瑞々しいエッセイを寄せている。
- フィールド料理教室—「食べる」を調べる楽しさ[八塚 春名]
- 母の死への怒り、生きる子への思い—狩猟採集民の死への身構え[関野 文子]
- おばあちゃんの形見分け—ベナの家族の一員になる[近藤 史]
- 熱帯河川の寄物たち—思わぬ収穫と出会う [大石 高典]
- 平等主義社会を支える意志—バカの分配と他者の受容[服部 志帆]
- まとまったおカネの使い道—貯蓄と消費、投資の変容誌[黒崎 龍悟]
- 宙ぶらりんの二四歳—先の見えない人生をともにする、ということ[丸山 淳子]
- 「森の民」との出会いと別れ—狩猟採集民バボンゴと私のかかわり[松浦 直毅]
とはいえ、実際、こんなすごい本を編むのは、大仕事だ。そもそも129人から原稿を集めるだけで、気が遠くなりそうだ。それらがわかりやすく13のパートにまとめられ、互いに響きあっている。各エッセイには白黒なのにカラーにみえるほどビビッドな写真が添えられ、タイトルの字は各執筆者の直筆というところまで素敵だ。一つ一つのエッセイは長すぎず、読みやすく、そして、フィールドワークとはいったいどのようなものなのか、というのが伝わる。
この本を読んでいると、思い出したことがある。数年前、フィールドワークについての講義をした後、学生が書いたコメントシートに、「私はちゃんと準備をして予想外のことに直面したり、フィールドの人に迷惑をかけたりしないようにして、資料を収集したい」というものがあった。たしかに準備は大切だ。フィールドの人に迷惑をかけないことも、このうえなく大事だ。フィールドに行きさえすれば何とかなるみたいな発想はやめたほうがいいと私も思う。実際、この学生自身、よく勉強していたし、いろんなことを想定し、気配りもできる人だった。でも、このコメントを読んだとき、私は、ああ、わたしはまだフィールドワークが何かということを上手に教えられていない、と落ち込んだものだ。
準備も迷惑をかけないことも大切だし、もちろんフィールドワークなんだから、資料の収集こそが目的なんだけど、でもそれだけでいいのかっていうとそうでもなくて…。フィールドでは、やっぱり予期せぬことは起きるし、失敗もするし、トラブルも絶えない。そして、それを通してしか得られない、新しい発見やかけがえのない交歓もある。それがフィールドワークだ、それでこそ、フィールドワークなのだ。いや、でもだからといって、準備不足でも迷惑かけてもいいと開き直るのも違う気がする。フィールドには、やはりもっと真摯に向き合いたい。あぁ、どうしたら、この「感じ」を伝えられるのだろう。そんなふうにもやもやしたのだ。
その「感じ」を、余すことなく伝えるのが、本書なのである。
書誌情報
ISBN: 9784814005864
発行年月: 2025/03
B5並製・296頁
本体: 2,000円(税込 2,200円)






