紹介者:田中 優花
ワックスプリントとは、インドネシア・ジャワのバティックからヒントを得て開発された、ろうけつ染めの技術を応用して生産されるプリント布のことだ。日本では、「アフリカ布」の名称でも知られている。かつて紹介者は、「アフリカ布」と呼ばれているくらいだから、これはアフリカで生産されたものなのだろうと安直に考えていた。しかし、この本の冒頭で、衝撃の事実を知る。「アフリカ布」の原産国の多くは、ヨーロッパやアジアの国であり、アフリカ大陸の外にあったのだ。「アフリカ布」に対して、「アフリカ的」な何かを知らず知らずのうちに求めていたからだろうか。あの独特の、奇抜なデザイン、鮮やかで大胆な配色が、実はアフリカではなくヨーロッパやアジアの国々によって開発されたものであるという事実に衝撃を受け、しばらく呆然としていたのを憶えている。
そんな紹介者の思い出はさておき、気を取り直して本書について紹介していこう。ワックスプリントに関連する300点以上の図柄や写真などが掲載された本書は、布の見本帖のようで、眺めているだけで楽しい一冊である。しかし、この本の魅力はそれだけではない。布の柄と一緒に、それぞれの図案にまつわる文化や開発の背景、そして歴史が紹介されているのだ。動物や自然などのモチーフや、扇風機やミシンなどの生活道具、政治家の顔がプリントされたもの、信仰と結びついたものなど、それぞれの柄ごとにジャンル分けされ、それらの柄の歴史や誕生の背景、使われ方、関連したアフリカの文化などが説明されている。「王家の伝統」と題されたセクションでは、ワックスプリントを「アフリカらしく」するために、ヨーロッパの企業家たちが布の図案にアフリカの文化を反映させていたという記述がある。例えば、19世紀に、大英帝国が西アフリカ・ガーナのアシャンティ国王との関係を強化させたことから、王権を象徴するアイテムから着想を得たデザインが生み出されたという。他にも、インドネシア由来のモチーフや、インドにインスパイアされた柄などが紹介されており、ヨーロッパやアジアのワックスプリント会社が、アフリカの人びとの嗜好性を研究し、努力して売れ筋商品を生み出してきたこと、そしてアフリカの人びとがそれらの商品を消費者として取捨選択してきた歴史を垣間見ることができる。
紹介者は、冒頭で「アフリカ布」の原産国がアフリカでなかったことに呆然としたと述べたが、この本を読みすすめるにつれ、「アフリカ布」が、この大陸の文化や歴史を色鮮やかに映し出してきたものであることを学び、それこそが、この布が「アフリカ布」と呼ばれている所以ではないだろうかと考えを改めた。多様なつながりによって生み出されてきた「アフリカ布」は、現在もアフリカ各地の日常のあらゆる場面に溶け込み、欠かすことのできないアイテムである。本書を読むことで、世界を舞台に、様々な物語を背景に生まれた「アフリカ布」の歴史や文化的な広がりを、ありありと感じることができるだろう。
書誌情報
出版社:グラフィック社
発売日:2019/10/8
単行本 252頁
商品ページ:https://amzn.to/4m1r1kG






