『バッタを倒しにアフリカへ』 前野ウルド浩太郎=著

紹介:安田 章人

いま、大きな話題となっている本であるため、すでに読んだ人も多く、もはやオススメ本として紹介する必要がないかもしれない。しかし、これだけ注目されているアフリカに関係した本を、アフリック・アフリカが紹介しないわけにはいかないと思い、取り上げさせていただく。

著者は、大学院を出た後、安定しないポスドクとして研究室に在籍していた。バッタの研究をしていたものの、バッタによる農作物被害がほとんどなくなった日本では、その研究成果の需要はなく、それに関するアカデミック・ポスト(大学教員や研究員)もほぼなかった。一念発起した著者は、サバクトビバッタによる蝗害に悩んでいた西アフリカのモーリタニアへ行き、一旗揚げようと日本を飛び出した。

しかし、言葉(アラビア語・フランス語)もほとんど話せず、文化や習慣も異なる状況に戸惑う。特にお金に関して苦労をしながら、現地の研究所の人びととともに、砂漠でバッタを追いかける。小さい頃から昆虫が大好きな著者の「バッタに食べられたい」という夢を叶えるため、そして、アカデミック・ポストに就くという将来のために、現地で必死にフィールドワークをおこなった。なかなか、バッタの大群に出会うことができなかったが、ついに遭遇。著者は、なんと長年、バッタに触れて研究をしていたためバッタ・アレルギーになっていた。にもかかわらず、緑色のタイツに身を包み、バッタの大群の前に立ちふさがった。彼は果たして、バッタに無事に(?)食べられることができたのか?そして、アカデミック・ポストという椅子取りゲームの結果は?それはみなさん自身で確かめていただきたい。

さて、内容紹介はここまでにして、ここからは紹介者の感想を書かせていただく。アフリック・アフリカには、アフリカ研究をおこなう大学院生、大学教員、研究者が多い。かくいう私も、大学院に6年間在籍し、博士号を取得したのち、4年間の研究員生活を送った。著者と同様に、遠いアフリカで一旗揚げる思いで必死にフィールドワークをしていた。その後、現職に就くことができたが、それは、著書にも書かれていたような大学に対する就職活動において、35連敗を喫したのちの奇跡だった。

この本の帯には、「抱腹絶倒の科学冒険就職ノンフィクション」と書かれており、笑いのなかにも歯を食いしばりながら努力する著者の姿が描かれている。この本が、いま話題になっているのは、必死になって自分の人生を切り拓こうとしている人に共感が集まっているからではないだろうか(絶大なインパクトを持つ本の表紙もあるだろうが)。アフリカに関心を持つ人にとどまらず、自身の人生を邁進しようとする人たちに是非読んでいただきたい。

書誌情報

新書: 378ページ
出版社: 光文社 (2017/5/17)
定価:920円
ISBN-10: 4334039898
ISBN-13: 978-4334039899