第35回アフリカ先生報告「神戸大学農学部」

「キャリアデザイン論 第10回:国際協力へのチャレンジ」(2009年6月19日)

織田 雪世

「キャリアデザイン論」は、神戸大学が「食農コープ教育による実践型人材の育成」事業(文部科学省の教育GP*)の一環として、農学部1年の学生さんを対象に開講している教育プログラムです。実務者の方々がオムニバス形式で講師を務め、仕事の内容ややりがい、学生時代にどのような体験と学習をしておくことが望ましいかなどについて、実体験にもとづく講義を行っています。目的は、学生さんが志を高める動機づけを行うとともに、キャリアパスのデザインについて考える機会を提供することです。この講義シリーズの第10回(6月19日、神戸大学農学部)を、アフリック・アフリカ会員の織田と近藤(神戸大学農学部在職)が担当しました。受講者は約270名です。

「キャリアデザイン論」の講師陣は、日本の食や農、健康・生命の現場で活躍しておられる方々が中心ですが、今回は「国際協力へのチャレンジ」という新しい展開がテーマです。そのため、講義では特に、(1)日本人として、異なる文化の人びとと学び働くことの面白さややりがい、そして(2)今後キャリアを拓いていく際に大切だと思われること、の2点を、等身大の目線でお伝えすることを目標としました。

まず近藤が、「アフリカ滞在経験と研究者への歩み —農村フィールドワーカーという研究スタイル—」という講義を行い、タンザニア農村での研究経験に基づいて、開発途上国の現場に飛び込む時に心がけたいことについてお話ししました。特に、先入観を捨て、異文化への敬意を持ってありのままを見つめることの大切さ、現場の情報や知識は段階的に深まるものだということ、そして、人とのコミュニケーションがセキュリティにも直結する大切なものであること、をお話ししました。

次に織田が、「『新しい世界』に身をさらす —国際協力へのチャレンジ—」と題して講義を行いました。まず、国文学を志していた自分がアフリカに目をひらかれたきっかけや、ガーナでのフィールドワークで学んだことを紹介し、それから、国際協力キャリアの概要や、在ガーナ日本大使館の専門調査員として2006〜2009年に従事した国際協力業務の経験についてお話ししました。特にメッセージとして、国際協力は「してあげる」のではなく「今を生きる、同じ人間」として行うものではないかということ、学び経験し、自分の頭で考えることの大切さ、そして、人生に無駄な経験はない、逆に無駄にしないことが大切ではないかということ、をお伝えしました。

講義の冒頭で、受講者の皆さんに「国際協力や外国に興味のある人は」と尋ねたところ、手はひとつも挙がりませんでした。でも実は、心の中で関心をもってくれていた学生さんも、少なからずいたそうです。質問タイムには、「アフリカは大変そうですが、どうして行くのですか」「アフリカで暮らして一番びっくりしたことは何ですか」「援助は役にたたないという話も聞きますが、どうですか」など、たくさんの質問をいただきました。また講義後には、何人かの学生さんが、真剣なまなざしで質問に来てくれました。

「アフリカへどうして行くのですか?」それは第一に、楽しいからです。人と出会い、価値観を揺さぶられ、学び、新しい窓を開くことにわくわくするからです(もちろん、学術的・社会的な意義も大きいのですが)。だから準備を重ね、そして受け入れてくれる人たちへの感謝や複雑な思いを胸に、また、いそいそと出かけていきます。

行先は、もしかしたらアフリカでなくても良いのかもしれません。世界の別の場所でも、日本でも、いろいろな場所、いろいろな人、いろいろな価値観に出会えるはずです。そうした「異なるもの」に、書物でもテレビでもなく、直接触れるという経験。それに受講者の皆さんが少しでも興味を持ってくださったら、嬉しく思います。それはきっと、皆さんの将来のキャリアや人生にも役にたつはずだと思います。

神戸大学「食農コープ教育を通じた実践人材の育成」

*教育GP(Good Practice)=「質の高い大学教育推進プログラム」。教育の質向上に向けて文部科学省が設けているプログラムの1つ。