紹介:黒崎龍悟
バックパッカー全盛期を牽引した著者は、アジアやインドを放浪した後、ついにアフリカに上陸した。1990年のことだ。アフリカ各地を「ビンボー旅行」しながら巡った記録をまとめたのが、本書である。
この時代のようなバックパッカー的旅行をしている人たちはきっといまも一定数いるのだろうが、現代の快適さと効率を追求する観光カルチャーのなかではほとんど話題にのぼることはないようだ。しかし、本書に通底しているスローで試行錯誤をともなう徹底的な経験主義の世界は魅力的に映る。現地の生活のペースにどっぷりつかった著者の観察眼は熟練のフィールドワーカーのようで、旅の道中の苦労、不便さ、危険が単なる苦労自慢や武勇伝にならずに、旅の面白さや現地の社会・文化への気づきに転化されて語られる。
とくに印象に残っているものとして、チュニジアからニジェールへとサハラ砂漠を乗り合いの車で横断するエピソードを紹介したい。
アフリカで走っている車(中古車)の状態は推して知るべしで、そのような車でかのサハラを越えるという発想自体に戦慄する。実際、砂漠を越えられなかった多くの車が乗り捨てられている「車の墓場」みたいな場所を通過していくという場面がある。「墓場」の仲間入りになりたくないために、スタックした車を死に物狂いで押したという話には、想像を超えた旅があるものだと唸った。若いころであれば、こういう旅も「怖いもの見たさ」で憧れたかもしれないが、いまでは、断然、話として聞くほうが良いと思う。そして、このエピソードをとおしてだけでも、多様な国・地域から人びとが集結する観光地としてのサハラの側面、サハラの自然の神々しさ、車にとっての難所を知り尽くした国境の役人、中古車の売買の実態(サハラを横断した車はそのままサハラ以南アフリカに売られていく)、遊牧民トゥアレグのたくましさなどについて知ることができる。
この本はもともと凱風社から1993年に上下巻で刊行された古いものだったが、2026年に1冊にまとめられたものが電子化されたので今回、紹介させていただいた。この新版には2000年代のアフリカ旅行の話も新たに加えられている。
イラストレーターでもある著者のイラストが数多く収められていて、それだけを見てもじゅうぶん楽しめる。
目次
第1部 アフリカ北・西編
第2部 アフリカ東・南編
第3部 その後のアフリカ旅行編
出版社 : SBクリエイティブ
発売日 : 2026/5/29
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