『レジリエンスは動詞である―アフリカ遊牧社会からの関係/脈絡論アプローチ』湖中 真哉、グレタ・センプリチェ、ピーター・D・リトル=編著

紹介者 村尾るみこ

レジリエンスという用語は、困難と希望を私たちに想起させる。気候変動、自然災害、物価高騰、感染症と絶望的なニュースが響くなかで、容易には打ち負かされない人間社会の力や躍動を表すかのようである。本書の序章をはじめ、各章のあちらこちらで、政治的・社会的・文化的な文脈と、時に対面的な関係性を超える社会関係の網の目のなかで出現するレジリエンスが示していることでもある。

何の、誰のためのレジリエンスかは、この記事をよんでいる人であれば、アフリカの人びと一人ひとりに寄り添って困難と希望を共に感じながら、考えようとするだろう。おそらく本書の著者たちも、そのように思考をめぐらせたのではないだろうか。たとえ記述しきることにためらいや抵抗が芽生えても、変化にさらされるアフリカ遊牧社会をはじめアフリカの都市・農牧・農耕社会に実際に身を置いてきたのではないだろうか。

日本にいても、一人ひとりに寄り添って考えようとすることは、同じである。少し前のことになるが、私自身も局地的な水害の被害に直面したことがある。水害は、自分が思うよりも、避けられない。ただ、どこでも何がいつ起こるかわからない、という言葉になかなか同意しかねてきた。どの水害であっても、その時、その場所、その人たちが考えて行動することは、自分が取り結んできた周囲との関係や、被災地と他の場所とのかかわりのなかで、それぞれ大きく異なっている。

そのように、書いてみれば当たり前とも思われるようなことを、実際このように言い出すにはやはりためらいがあった。私が執筆したザンビアの難民定住地の事例について、本腰を入れて調査を開始したのは、水害の被害にあった翌々年、2006年にまでさかのぼる。

今日に至るまで、私は南部アフリカにあるザンビアの難民定住地だけでなく、農村にも都市にも、長くかかわってきたが、そうしていると様ざまな関係ができあがった。本書にも書かれているとおり、調査者ももちろん、アフリカ社会のレジリエンスの変化に大きくかかわっている。書き手が現地で脈絡や関係にからめとられながら、これからもアフリカ社会のレジリエンスは変化するだろう。

本書は3部にわかれており、章構成は以下のとおりである。

序章 東アフリカ遊牧社会の脈絡からレジリエンスを再考する[湖中真哉、ピーター・D・リトル、グレタ・センプリチェ]

第Ⅰ部 レジリエンスの政治経済学
第1章 援助でアフリカはレジリエントになるか?――気候変動による災害が経済成長、農業、紛争に与える影響[島田 剛]
第2章 開発・人道支援分野におけるレジリエンスの系譜学――可能性と問題点[榎本珠良]

第Ⅱ部 生業多様化とレジリエンス
第3章 レジリエンスと多様化の政治経済学――ケニア・バリンゴ県のイルチャムスの事例(一九八〇~二〇一八年)[ピーター・D・リトル]
第4章 東アフリカ牧畜社会における生業多様化とレジリエンス[佐川 徹]

第Ⅲ部 レジリエンスとアイデンティティ
第5章 移動するアイデンティティ――ケニア北部トゥルカナの牧畜民のレジリエンス、帰属、変化[グレタ・センプリチェ]
第6章 土地法の改正とサンブル遊牧民女性のレジリエンス[ラーマ・ハッサン]

第Ⅳ部 難民化した遊牧民のレジリエンス
第7章 関係性と脈絡から遊牧民のレジリエンスを考え直す――サンブル・ポコット間の紛争(二〇〇四/二〇〇九年)の事例研究[湖中真哉]
第8章 避難の物質文化――東アフリカ遊牧社会の国内避難民に関する存在論的考察[湖中真哉]
第9章 セカンド・シティズンの幸福[波佐間逸博]

第Ⅴ部 レジリエンスと移動性を比較する―農耕民・都市居住民・遊牧民
第10章 (非)移動と忍耐力を通じたレジリエンス――バマコのケル・タマシェク[ジュリア・ゴンザレス]
第11章 待機と賭け――タンザニアのインフォーマル経済のレジリエンスをめぐって[小川さやか]
第12章 ザンビア農村部における元難民のレジリエンス[村尾るみこ]

エピローグ 乾燥地におけるレジリエンス――意味をめぐる論争[イアン・スクーンズ]
あとがき
索  引

書誌情報

出版社:京都大学学術出版会
発売日:2024/03
単行本 484頁
ISBN-13: 9784814005376
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