『南スーダンの独立・内戦・難民―希望と絶望のあいだ』村橋 勲 著 

紹介:村尾るみこ

 毎年、6月20日は世界難民の日である。同日は、もともとアフリカ統一機構(OAU)難民条約の発効を記念する「アフリカ難民の日」であった。やがて1951年難民条約の制定50周年を記念して世界規模での啓発日として制定されたものである。しかし本書を今号で紹介するのは、世界難民の日を今年も迎えた今、難民保護の重要性を無批判に取り上げるのではなく、そもそも難民と呼ばれる人びとがいかに今を生きているかを具体的かつ多角的に問い直し、難民保護の意義や普遍的な倫理と私たちの生活世界をつなげる視点を示すためである。

本書でも指摘されているが、20世紀、難民は、古典的な人道支援を通じて、グローバルな支援体制下で保護する、ケアと管理の対象であった。しかしながら、21世紀は特に、世界各地で排外主義的な政策が強まり、資金が先細るなかで、難民の「自立(self-relience)」「レジリエンス」を称揚したり難民支援の民営化が歓迎されたりするようになった。新たな難民統治体制の確立である。

難民研究では、本書が取り上げているウガンダをはじめ、門戸を開放し実質的に難民管理の柔軟性を擁すアフリカ諸国の諸施策や、自主的定着難民(self-settled refugee)の実践が先進的事例として研究されてきたのである。本書はこうした状況を批判的に捉え、難民の生計活動やエスニシティの集団的再編成の分析を通じて、難民の「未来」を論じている。さらに本書では、その研究の蓄積がまだまだ待たれる南スーダン難民を取り上げている点でも重要である。

本書は、難民の「未来」とは不確かであり、そのなかで難民が社会関係をとりむすびながら苦闘する先にある、と指摘している。その社会関係が取り結ばれる場を捉えることは一筋縄ではない。難民には頻繁に庇護国社会を移動する者もいれば、長らく定住地やキャンプのような難民収容施設に住み続けるものがいる。そして、村や都市などホスト社会に住み続ける難民もいる。それを追うように、日本における難民の人類学的研究は多様に展開している。

このように、難民は、難民収容施設での開発や支援の動向と無関係ではない。だが、本書でも示されているとおり、難民収容施設にいる難民の<現在>を捉えるばかりでは、難民の生活世界が完結しない。彼らが生きている不確かな「未来」へ続く<現在>は、交流の歴史を積み重ね、国家の領土を定めた、絶え間ない対立と共生が生起する<私たちの「現在」>なのである。

本書のように、多様な難民の存在を視野にいれながら、彼らの生きる世界一つ一つから、難民理解が深層から進めば、難民を含む<私たちの「未来」>を描くことができるのではないだろうか。

 

目次

序章 危機と移動

第1章 国境と移動

第2章 「希望の国家」の破綻

第3章 暴力からの逃避

第4章 難民の管理とケア

第5章 自立とレジリエンス

第6章 生計の再構築

第7章 他者とのつながりと差異

終章 未来への希望

 

出版社: 昭和堂
ISBN:  978-4812220092
発行年月:  2021/02
251頁
本体: 6,200円(税込 6,820円)
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