『商人たちのオルタナティブ-紛争後のコンゴ東部で紡がれる新たな流通ネットワーク』 高村伸吾=著

紹介者:田中優花

「コンゴ(コンゴ民主共和国)」と聞くと、どのようなイメージを持つだろうか。
日本のメディアでは、この国について語られる際、「紛争」や「混乱」、「貧困」といった側面が強調されることが多く、暗く重い印象を抱いている人も少なくないかもしれない。
しかし、本書は、そのような一面的なイメージを問い直し、紛争後の社会を生き抜く人々の力強い営みに光を当てている。

本書が描き出すのは、国家の機能が破壊された状況のなかで、生活を再建し、新たな秩序を形成している人々の姿である。著者は、コンゴに生きる人々を「平和や復興を実現する能力がない受動的な存在」としてではなく、「積極的な主体」として改めて提起している。そして、人々の主体的な働きに焦点を当て、各地の市場や流通ネットワーク、交通路の再編を丁寧に追いながら、コンゴにおける草の根的な地域社会の復興の実態を明らかにしている。

度重なる紛争によって、植民地期から使われていた流通システムが荒廃した後、人々が「長距離徒歩交易」によって流通ネットワークを拡大しているようすが取り上げられている。その内容とは、20―30kgの荷物を背負い、自身の荷物は最低限の携行食を所持しただけで、「森の道」を通り、2週間かけて市場に向かうというものである。極めて過酷な営みだが、それは単なる苦難の象徴ではなく、厳しい状況のなかでも生活を成り立たせようと紡ぎだされた、人々の創意工夫と実践力のあらわれでもある。

また、これまでは人々にとって商業参入の障壁となってきた河川を活用することで、都市と農村を結びつけ、自由な移動を促進してきた事例についても紹介されている。
そこでは、丸木舟や河川沿いの定期市といった在来の知識に、船外機など外部から導入された技術を組み合わせながら、移動や流通の手段を柔軟に革新していく人々の姿が描かれている。

私たちは、紛争のニュースを通してコンゴという国を知ることはあっても、その後の人々の暮らしについて知る機会は決して多くない。紛争後にも、その地に生き続ける人々がいるはずなのに、コンゴに生きる人々がどのように日々を営み、社会を立て直しているのかが語られることは少ない。そして、そうした情報に触れる機会が限られている私たちにとって、遠く離れたアフリカに暮らす人々の顔や生活を思い描くことは容易ではない。

だが、本書を読むと、紛争後にもなお、市場には人が集い、商品が行き交い、人々が生活を営み続けている姿があること、コンゴ社会に暮らす人々の息遣いや、困難な状況のなかでも逞しく生き抜く姿に触れることができる。

同時に、本書の中で描かれる実践は、決して「遠い異国の話」に留まらない。不安定さや先行きの見えなさを抱える現代社会において、人々がどのように互いに支え合い、工夫しながら生活を切り拓いていくことができるのか。本書は、こうした問いかけに対し、多くの示唆を与えてくれる一冊である。

目次
第1章 序論
第2章 対象地域と調査方法
第3章 紛争後における森林-都市流通の回復
第4章 チョポ州における定期市
第5章 コンゴ遍歴商人の商業実践
第6章 討論
謝辞
引用文献

書誌情報
出版社 松香堂書店
ISBN 978-4-87974-795-2 C3039
出版年月日 2025年3月31日

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コンゴ民主共和国でのアフリックの取り組みについて:
コンゴ民主共和国でフィールドワークを続けているアフリックアフリカの会員によって、困難な生活状況に置かれた調査地の人々を支援する活動が行われています。コロナ禍や現地情勢の悪化により、プロジェクトは長らく休止していましたが、2026年から新たに「声をつなぐプロジェクト」が始動しました。ぜひ、こちらの情報も併せてご確認ください。