『タンガニイカ湖畔』 伊谷純一郎・西田利貞・掛谷誠=著

紹介:黒崎 龍悟

日本の霊長類学者によるアフリカでの本格的な調査は1960年にはじまった。先駆者たちはチンパンジーの調査をおこなうために、タンザニア・タンガニイカ湖畔の原野で長期の生活を送り、森林地帯を踏破した。霊長類学の調査が進むうちに、自然に強く依存しながら生活する人へも目が向けられ、1970年代になると、人類学者の生態人類学的な調査も進められるようになった。

これらの調査の結果は論文等で報告されることになったが、そうした媒体ではあらわしえない地域の様子を写真と短い文でつづったものが本書である。タンガニイカ湖を往く船、チンパンジーの生態、原野の動植物、焼畑がひらかれた山、儀礼の様子など、本書の写真はほとんどが白黒で素朴なものだが、見る者を強く引き込む魅力がある。

その理由を考えたときに、著者の一人が別の著書(伊谷純一郎著『原野と森の思想』岩波書店2006年)に述べていた言葉が思い当った。それは、アフリカでの調査研究に一番必要なのは、研究対象を尊敬することであるという指摘である。おそらくそのような対象を尊敬する撮影者の気持ちが凝縮されたのが本書なのであろう。

時代は下って、現在のアフリカは開発援助・協力と不可分の存在になった。こうなると、本書は素朴な「古き良きアフリカ」を示すだけのように思えるかもしれない。しかし、より良い援助・協力関係を考える場でこそ、対象への尊敬にも似た感情が求められているのではないだろうか。その意味で、本書は「古き良きアフリカ」だけではなくて、今後の私たちのアフリカとの付き合い方を示してくれているようにも思える。

書籍情報

出版社:筑摩書房
出版年:1973年
191ページ