秋道智彌・岩崎望編『絶滅危惧種を喰らう』勉誠出版、2020年12月初版刊行

紹介者:大石高典

 この本は、生き物文化誌学会で2018年に開催された絶滅危惧種の利用と保全についての同名のシンポジウムをもとに編まれた。「絶滅危惧種」として国際自然保護連合(IUCN)のリストに記載される動植物の種類は増え続けており、本書には、それらのうち、アフリカに暮らすアフリカゾウ、チンパンジー、クロサイから、日本人に身近な海の生き物、クジラ、ウナギ、サメにいたるまで世界各地の「絶滅危惧種」をめぐる人と生き物の物語が集められている。

「絶滅危惧種」との関わりに応じて3部立てになっており、本のタイトルと同じ第1部「絶滅危惧種を喰らう」では、文字通り絶滅危惧種を「食べる」かたちでの利用に焦点が置かれる。続く第2部「絶滅危惧種の商品化と文化化」では、装飾品として身にまとったり薬用にするなど、非食用目的も含めて生き物が商品化されたり、各地の文化に取り込まれる中で生じているジレンマが、おもに捕獲や流通に関わる当事者の視点から取り上げられている。最後の第3部「絶滅危惧種の保全と利用」では、グローバルな枠組みである「絶滅危惧種」の概念と実態をめぐる課題が、制度や仕組みなど政策の動向を踏まえて議論の俎上にあげられている。

本書にはいくつかの工夫が凝らされている。中華料理でフカヒレを食べたことはあっても、その本体であるシャチという生き物を想像できない人はすくなくないだろう。このように日本に暮らす読者にはなじみの薄い生き物についても、写真や図がふんだんに使われているのでイメージが湧きやすい。また、狭義の学術書のスタイルを取っておらず、動物学者、人類学者などの研究者のほかに、自然保護や報道の実務に携わってきたNGOやジャーナリストが、それぞれの立場や語り口を踏まえて寄稿しているので視点がバラエティに富んでいる。

具体的に、アフリカの動物について扱っている章とコラムを例に見てみよう。

第1章「「隣人」としてのゾウ」(安岡宏和)では、獲物であるゾウ肉の分配に着目して、カメルーンの熱帯林に暮らすバカ・ピグミーにとってのゾウ狩猟の意味が論じられる。安岡は、バカの社会に伝わるリカノ(民話)も引きながら、ゾウに対して致命傷となる第一撃を与えたハンターがその肉を食べることが出来ないのはなぜなのか、謎解きに挑んでいる。第9章「絶滅危惧種を創る、護る」(岡安直比)は、中部アフリカ諸国を舞台に、相次ぐ内戦などの困難をかいくぐってゴリラ孤児の保護活動など保全の実務に取り組んで来た経験をもとに、「絶滅危惧種」概念の有効性を問い直している。エボラ出血熱や新型コロナウイルス感染症など人獣共通感染症を新たな絶滅リスクと捉える岡安は、そこに野生動物の保護・保全をめぐるヒトの特権性が崩されつつある状況を見ている。

コラムでは、2016年に新たに絶滅危惧種に指定されたセンザンコウのウロコ交易(コラム2)や漢方薬として重用されるサイの角の交易(コラム5)のように、ますます盛んになっている地域を超えた野生動物交易の実態、タンザニアの野生チンパンジーを撮影してきたテレビ番組取材クルーによるチンパンジー観察の逸話(コラム9)、そして野生動物を殺さずに利用すると言う意味で成功例とされるルワンダのゴリラのエコツーリズムの課題(コラム10)など、さまざまなトピックが扱われている。

稀少生物の保護・保全をめぐっては、価値の問題や政治との関わりから極端な方向に意見が分かれてしまいがちだが、このように執筆陣は異なる立場から「現場」で見たことやそれぞれの経験から「好き勝手」に持論を展開している。その結果、執筆者の間で同じ動物種に対しても少なからず見解のずれや意見の相違が見られるようになっているが、編者はそれらに無理に整合性を付けようとはしていない。本書には、多くの人がさまざまな感情を掻き立てられるだろう刺激的なタイトルが付いている。最後まで読むと、この挑発的なタイトルが確信犯的に付けられたことが分かるだろう。

書誌情報

『絶滅危惧種を喰らう』
秋道智彌・岩崎望(編)、A5判  270頁
出版社:勉誠出版
定価:3,200円+税
刊行:2020年12月28日
ISBN-13: 978-4-585-24014-3
出版社URL:https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=101179&language=ja

 

目次:
★:アフリック会員による執筆
●:アフリカの野生動物が扱われている章・コラム

序章 絶滅危惧動物とヒト―かかわりあいの歴史と文化 秋道智彌

第1部 絶滅危惧種を喰らう

第1章 「隣人」としてのゾウ―バカ・ピグミーのゾウ肉タブーから読み解くヒト社会の進化史的基盤(安岡宏和)●
コラム1 メコンのシンボル「プラー・ブック」の危急と活用(秋篠宮文仁)
第2章 ジュゴン猟をめぐるトレス海峡諸島民と生物学者たち(松本博之)
コラム2 センザンコウの肉とウロコ(大石高典)★●
第3章 凋落する大衆回遊魚―サケとウナギ(森田健太郎・黒木真理)
コラム3 フカヒレ狂騒曲(鈴木隆史)

第2部 絶滅危惧種の商品化と文化化

第4章 ウミガメはなぜ減少するようになったのか?(亀崎直樹)
コラム4 フウチョウに倣って着飾るダンサー―パプアニューギニア西部州クボの事例から(須田一弘)
第5章 ホッキョククジラを守りながら食べる―北極海の先住民捕鯨(岸上伸啓)
コラム5 薬となって滅びる動物―犀角に群がる人びと(北出智美)●
コラム6 イルカ漁をめぐる三つの局面―自然科学と環境保護と伝統文化(竹川大介)
第6章 宝石サンゴ―限りある資源と限りなき欲望(岩崎望)
コラム7 鯨歯文化も絶滅するのか―捕鯨の副産物(内田昌広)

第3部 絶滅危惧種の保全と利用

第7章 野生生物の違法取引と戦う―ワシントン条約と日本(井田徹治)
第8章 日本の「ゼロ絶滅」と「持続可能な利用」達成へのみちすじ(東梅貞義)
コラム8 捕鯨は悪か―アンチ・スーパーホエール論(秋道智彌)
第9章 絶滅危惧種を創る、護る―新たな絶滅要因、感染症によるパラダイムシフト(岡安直比)●
コラム9 チンパンジーを笑うヒトは滅びる(中村美穂)●
第10章 食べて守るか、食べずに守るか(松田裕之)
コラム10 殺さずに末永く利用する―成功例ルワンダのゴリラツーリズム(井田徹治)●

終章 霊性の復権―絶滅危惧種とのつきあい(秋道智彌)