“Western Celebration of African Poverty: Animal Rights versus Human Rights” ＝Emmanuel Koro(エマニュエル・コロ)著

紹介：寺田　佐恵子

本書（紹介者による訳：『西洋によるアフリカの貧困礼賛：動物権vs人権』）は、南アフリカ共和国・ヨハネスブルグを拠点とする環境ジャーナリスト、エマニュエル・コロ氏が、長年の体験・取材・文献収集に基づいて、南部アフリカの野生動物の保全を取り巻く複雑な背景に鋭く切り込んだ一冊である。

本書の根幹をなす主張は、アフリカの野生動物保全の秘訣は「持続可能な利用」により、野生動物からの収益が地域社会や地域住民に還元されることである、というものである。著者は、トロフィーハンティングやコミュニティによる自然資源管理による事例を紹介しながら、地域住民が野生動物を「価値ある資産」とみなすことで、保全インセンティブ（動機）が高まり、密猟者から保護活動家へという意識改革まで促進されることを説明する。

一方、著者はこのような野生動物保全の成功を脅かす最大の障害として、資金力に富んだ「欧米の動物権団体」や、それに支配された国々が、国連下の条約であるワシントン条約（CITES）の意思決定を「支配」し、科学的根拠ではなく感情論に基づき、「不当に」野生動物の国際取引を禁止していることを挙げる。

南部アフリカ諸国にはアフリカゾウは多数生息し、絶滅のおそれがあるわけではない。政府は自然死や間引き由来の象牙を大量に保管している。また、犀角は爪のようなものであり、生きたまま継続的に採取することができる。象牙や犀角を売れば莫大な資金が生息国に入り、保全、教育などに充てることができる。なぜ、石油の取引は認めるのに、南部アフリカ諸国に自然由来の資源の取引は認められないのか。

著者はこのような指摘をし、これは「植民地主義的」で「人種差別的」な西洋の支配であり、アフリカ諸国は野生動物の保全に成功しながらも「水の中に立ちながら渇きで死ぬ」、そして、そのようなアフリカの貧困を西洋が「礼賛している」と痛烈に批判する。「アフリカの未来は『援助』ではなく『貿易』にあり」、それを阻害し、SDGsに逆行するようなCITESならば脱退してしまえと、アフリカ諸国に呼びかけ、また、メディアの役割と功罪にも触れる。

考えさせられる点の多い本であるが、文章自体は、短い12の章からなり、会議の場や取材現場にいるような臨場感を感じさせてくれる。私自身が本に出てくるいくつかCITES会合の場にいたということもあるだろうが、ドキュメンタリー映画を見ているような気分になる。読み終えて楽しい気分になるかといわれると難しいが、目をそらしてはいけない指摘にあふれた本である。アフリカの野生動物保全を取り巻く複雑な世界をのぞいてみたい人には、ぜひ読んでいただきたい一冊である。

Forward （序文）
About the Author (著者について）
第1章 African Wildlife Conservation Secrets（アフリカの野生生物保全の秘訣）
第2章 CITES Capture Harms Wildlife and People（ワシントン条約（CITES）の乗っ取りが野生生物と人々に害を及ぼす）
第3章 Short-Lived Victory for Ivory Trade（象牙取引における短命な勝利）
第4章 The Big Media & Wildlife Economy Question（大手メディアと野生生物経済の疑問）
第5章 Will the UN Reform CITES?（国連はCITESをリフォームするか？）
第6章 Use Your Wildlife or Become Beggars Forever （野生生物を活用せよ、さもなくば永遠の物乞いとなる）
第7章 World’s Largest Rhino Project Faces Collapse（世界最大のサイのプロジェクトが崩壊の危機に直面）
第8章 Why Aid Won’t Save Africa’s Wildlife（なぜ援助はアフリカの野生生物を救えないのか）
第9章 When You Ban Hunting You Harm Wildlife and People（狩猟を禁止すると野生生物と人々を傷つける）
第10章 CITES: Curse or Blessing for SADC Countries?（CITESワシントン条約：南部アフリカ開発共同体（SADC）加盟国にとっての呪いか祝福か？）
第11章 The Poverty-Stricken Rich Continent（貧困に苦しむ豊かな大陸）
第12章 SADC’s Far-Reaching Media Publicity—A Personal Observation （SADCの広範囲にわたるメディア広報―個人的所見）
Acknowledgements（謝辞）
Glossary of Acronyms（略語一覧）
Bibliography（参考文献一覧）