岩井雪乃
ゾウプロでは、アフリカゾウによる農作物・人身被害を減らすために、村々で組織されている「ゾウ追い払い隊」を支援しています。ゾウプロを始めて20年経ちますが、ゾウの襲撃は減ることはなく、むしろ増える一方です。根本的な解決には政府の大規模な介入が必要ですが、残念ながらそのような動きはまったくありません。そんな中、追い払い隊の努力で、畑への侵入は7割ほど減らすことができています。「ほどほどの収穫でほどほどに生きる」ことはできる状況です。
追い払い隊への支援を拡大しはじめたのは、2年前からでした。その頃は行く先々で「ユキノ、俺たちはどうやって生きていったらいいんだ?ゾウを何とかしてくれ!」と悲痛な叫びを聞いてきました。最近は、「メンバーで協力しあってゾウを追い払えている。まあまあ収穫できているよ」という報告が多いです。うれしい成果を感じています。

夜のパトロール、マチョチュエ村
2024年度は、3つの事業をタンザニアで展開しました。それぞれを報告します。
- 1)ゾウ追い払い隊支援(マラ州セレンゲティ県)
- 2)ゾウ被害者・遺族支援(マラ州セレンゲティ県)
- 3)ゾウ追い払い隊設立支援(モロゴロ州ムボメロ県)
1)ゾウ追い払い隊支援(マラ州セレンゲティ県)
セレンゲティ県では、11村の追い払い隊を支援しています。この11村は、北部9村と西部2村の2ブロックに分かれています(図1)。

図1 セレンゲティ県の活動村
北部9村への支援は、2段階で行っています。第1段階では、ゾウを追い払う時の必須道具である「懐中電灯」と「爆音器」を提供し、さらにパトロールに同行して、これらの道具を使った効果的な追い払い技術を指導します。第2段階の支援は「制服」です。制服には、安心して活動できる効果(密猟者と間違われて逮捕される心配がない)と、自尊心が高まる効果(普段協力してくれない村人や村・県の役人から一目置かれる)があります。

表 セレンゲティ県追い払い隊に支援した物資
表は、2023年度と2024年度の支援物資の一覧です。1~7番の村は、第1段階の道具支援が23年度で終了し、制服の支援をしています。8番ニャマケンド村と9番メレンガ村は、24年度に新しく設立された追い払い隊なので、道具支援から始めています。4番タムケリ村には、見張り小屋も建てました。
西部2村は、爆音器で走って追い払うのではなく、バイクで追い払います。そこで、バイクから照らすサーチライトとガソリン代を今年度は提供しました。

第1段階の懐中電灯と爆音器の支援

第2段階の制服支援

タムケリ村の見張り小屋、雨宿りや仮眠ができる
2)ゾウ被害者・遺族支援(マラ州セレンゲティ県)
現在、2名と1家族に生活費の一部を支援しています(名前は仮名)。
- ①被害者12歳男子ムイタくん:2023年に家の近くでゾウに鼻で投げ飛ばされて大腿骨骨折、歩行に障害が残り通学できず小学校退学
- ②遺児19歳男子アユブくん:2019年に母が畑でゾウに遭遇して殺された、2024年中学を卒業して高校に進学
- ③遺族 妻サラさん、子9歳男子エルくん、7歳女子モゴンドさん:2023年に父が追い払い中にゾウに殺された

母をゾウに殺されてしまった②アユブくん、中学校にて
この方々は、ある日突然ゾウによって一生が変わってしまい、悲しみと困難を抱えて生きることになってしまった方々です。目の前の日々を生き抜くのに精一杯で、将来の見通しを持つこともままなりません。公的な支援は、わずかな見舞金が支払われただけで(それすら受け取っていない家族もいます)、他には何もありません。ゾウプロも予算が限られている中で、どんな支援がいいのか模索しながら関わっています。
②アユブくんは、自分で畑を耕して、できたトウモロコシを売って学費を稼ぐという、大変な苦労をしながらも、優秀な成績で中学を卒業して、見事高校に合格しました!高校は寮生活で、さらに費用がかかるので、しっかり支援していきたいです。
3)ゾウ追い払い隊設立支援(モロゴロ州ムボメロ県)
ムボメロ県は、現在はセレンゲティほど被害が出ていませんが、年々被害が増えている地域です。まだ追い払い隊がなく、個々の農家はバラバラに自分の畑を守っています。それでは、巨大で群れで襲ってくるゾウに太刀打ちできません。セレンゲティでの経験(集団で追い払う効果)を伝えて、追い払い隊を組織することを勧めています。

図2 新活動地モロゴロ州ムボメロ県
ムボメロ県での活動は、実験的に進めています。「住民が追い払い隊を組織してゾウを追い払う」というセレンゲティ県で成功している手法が、他の地域でも有効かどうかはわかりません。地域の野生動物との関わりの歴史・文化、地理・動物個体数などの自然環境、国立公園との関係・政治、外部援助組織の有無など、さまざまな要素が合わさった上で「追い払い隊」という対策手法を住民が選択します。

ムボメロ県は稲作が盛ん。ゾウは稲を食べにくる。農民は見張り小屋を建てて毎晩田んぼで寝ている
2023年7月に初めて訪問し、追い払いセミナーを開催したところ、追い払い隊が2村で合計3チーム結成されました。そして、これらには第1段階の道具支援(懐中電灯と爆音器)をしました。
2025年3月にフォローアップで訪問した際には、3チーム中、2チームが継続、1チームは解散していました。そして、今回、要望されて再度セミナーを開催したところ、1チームが追加で結成されました。
この2年間の試みからは、ムボメロ県でも追い払い隊が有効な地域があるといえそうです。とはいえ、そのニーズはまだら模様で、セレンゲティ県にように面的な広がりにはならないのかもしれません。引き続き、試行錯誤を続けたいと思います。






