家庭内暴力のきっかけとコネ社会の困難

NGOスタッフのロジェの元には、時々、公的な機関の福祉センターの職員から電話がかかってきます。その日は、福祉センターに来た22歳の女性マロン(仮名)の件の相談でした。マロンの夫はアラダの裁判所で働いています。

ある日、彼女が洗濯をするためのプラスチックの桶を買いに行くためのお金を夫にもらいました。しかし、市場に行く日に、夫はそのお金を食費のために使うから返せと言いました。彼女はまだ1、2ヶ月の赤ちゃんの服を洗うためにどうしても桶が欲しかったので、既に桶を買ってしまったと言うと、夫はじゃあ見せてみろと怒り、喧嘩になりました。そして、夫はマロンをひどく殴りつけてしまいました。

暴力を受けたマロンは、福祉センターに相談に来ました。福祉センターが彼女を警察に連れていき、暴力を振るわれたことを話すと警察は夫を逮捕するべく動きました。しかし、夫には警察に知り合いがいてコネがあったため、結局訴えは放置されてしまいました。怪我を負ったマロンにはお金が無く、明日の食事にも困る状況でした。そこで、ロジェはNGOとして10,000フラン(約2500円)の薬代とコメとキャッサバ粉を支援しました。ロジェと福祉センターは、警察のこのふるまいを、女性の地位向上を目的とする国立女性機関に訴え、国立女性機関は警察に事情を聴くことを約束しましたが、今後、どうなるかはまったく不透明です。

家庭内で女性の経済力が弱い場合、女性への暴力はこのように生活費をめぐる些細なことをきっかけに発生することが少なくありません。生活のため、子どものためといった最低限の女性の訴えも、夫に聞き入れられず、暴力を受ける結果になることもよく耳にします。また、コネクションが重要視されるベナン社会では、福祉センターという公的な施設を通してすら、正統な訴えが握りつぶされてしまうことがよくあります。そして訴えてしまったことで、女性は夫の家には戻れず、子どもとともに支援の無い状態に放り出されてしまう結果になったりもします。このような状況があるため、女性たちは、ますます家庭内暴力に対して、黙って耐えるようになってしまっています。

こうした悪循環はどのように断ち切れるのか。私たちも答えを持っている訳では決してありません。目の前で困難な事態に直面している女性を支援したり、小さな商いをして少しでも経済状況を良くしようとする女性を支援したりしながら、人びとと一緒に考えていきたいと思っています。