20周年を「祝う」

松浦 直毅

2022年が終わろうとしている。アフリックにとって今年最大のできごとはもちろん、コロナ禍によって中断していた渡航を多くの人たちが再開できたことだろう。私もこの夏、2020年はじめにガボンから帰国して以来、2年7ヶ月ぶりに渡航することができた。はじめて渡航した年から毎年かならずどこかの時期にはアフリカにいる、というのが続いてきた私にとって、アフリカで過ごす時間は人生の一部ともいえるものになっていたので、アフリカに行けることのありがたさをあらためて深くかみしめた。ブランクのせいで調子がでないとか、不在にしていたあいだの変化に戸惑ったりするようなことがあるかもとも思っていたが、そんなことはまったくなく、現地の人たちと久しぶりの再開を喜びあったあとは、いつもどおりに調査ができ、心身ともに元気になっていくように感じられる充実した日々だった。

エッセイの題材にしてもイベントのテーマにしても、アフリックの活動を支えているのは、会員がアフリカから持ち帰ってきた「生の情報」である。また、各地で実施している支援活動は、現地に深く根を下ろし、現地の人たちと密接に協力しておこなわれている。そうした意味でアフリカに行けないことは、アフリックにとって死活問題であった。実際に、停滞を余儀なくされた活動もあるし、ネタ切れのようになってしまうところもあった。こうしてまたアフリカに行けることになったのは心から喜ばしいことであり、さまざまな制限や問題はまだまだあるが、まずはそのことを祝いたい。

そのアフリックは、すこし先になるが、2024年に20周年を迎える。これからはじまる2023年は、したがって20周年に向けた準備の年と位置づけられる。各地でおこなわれてきた多種多様なイベントの数々、書き溜められてきた膨大な数のエッセイ、蓄積された色とりどりの写真、そして、残してきた多くの実績を振り返ると、歴史の重みを感じるとともに、誇らしい気持ちになる。コロナ禍では渡航できない苦しさも感じたが、多くの活動はむしろ通常運転で進められており、2年くらいの空白であれば問題なく埋められるくらい十分な蓄積がアフリックにそなわっているのだと心強く感じた。

私自身は、すこしさきがけて今年がアフリカ研究20周年であった。曲がりなりにもここまで続けてこられたこと、そして、自分なりにいろいろな達成ができたことは、素直に祝いたいと思う。じつは、別の調査地での活動が中心になっているため、調査をはじめた場所であり、最も長く過ごした場所であるB村とM村にはしばらく行けていないのだが、20年続けられた喜びは、原点であるB村とM村の人たちにこそ伝えたい。B村のパパ・ディピンゴとママ・ズィンブは、にこっとしたあと、多くを語るわけでもなく「それは良いね」と言ってくれるだろう。結婚と娘の誕生を報告したときもそうだった。M村のパパ・パスカルとママ・マリーは、大げさにまくしたてて、大声で周りにいる人たちを呼び寄せてみんなに報告してくれそうだ。就職できたことを伝えたときもそうだった。

ところで、この文章は、昨日到着したばかりのガボンのホテルで書いている。私の20年は、年末年始に不在にすることをこころよく許してくれる家族、「すごいですね、お気をつけて」とあたたかく送り出してくれる職場の同僚、そして、たくさんの研究仲間や関係者によって支えられてきた。15年以上前に出会って、いろいろなことを一緒にやってきた友人のガボン人研究者・ギイマックスさんもそのひとりである。今回の渡航の大きな目的のひとつは、ギイマックスさんの博士論文審査会に審査員として参加することである。20年におよぶ研究にもとづくギイマックスさんの博士論文は、質量ともに充実した集大成と呼ぶにふさわしいものであり、彼の達成を私も心から祝いたい。そして、身の丈を超える重責であるが、彼の晴れ舞台を見届ける役に選んでもらったこと、友人の達成を支える立場になれたことをうれしくも思う。

アフリックとそのメンバーも、私にとってもちろん欠かせない存在である。長期調査を終えた大学院博士課程の2006年から参加して16年ほど、現地で得られた学びを研究論文とはちがうかたちで発信する媒体として、つぎの研究テーマの着想につながる実践の機会として、そして、さまざまな背景をもつたくさんの人たちと出会う場として、私の研究人生はアフリックの活動とともにあったといっても過言ではない。これからもアフリックがそのような場であり続けてほしいと思うし、後輩会員のみなさんにとってもそうした場になるように、支える側にもまわっていきたいとも思う。今後、アフリックも社会もますます大きく変化していくだろうし、さまざまな問題にも直面していくはずだが、これまでアフリカで学んできたことを思い出して、新しく迎えた年を、そして20周年という節目を、とにかく前向きに盛大にみんなで祝いたい。