夜中まで、ずっと(ウガンダ)

大門 碧

鳴り響く音楽。マイク片手にはずむ若者たち。ステージへと向かう人びと。手にはコインか紙幣、もう片方の手にはビール瓶、体をゆらしながら、笑顔で、男も、女も。時には子供も。
ウガンダの首都、カンパラ。夜中の盛り場の光景。

初めて会った人と挨拶を終えて、会話がしばらく続けば聞かれる。
「どこのチームを応援してる?」 これはイングランドでおこなわれているサッカーリーグ「プレミアリーグ」のチームについて聞いている。地元にもいくつかサッカーチームがあるものの、サッカーといえば、カンパラでは「プレミアリーグ」のことをおのずと指す。

東アフリカの内陸に位置するウガンダと、プレミアリーグの試合がおこなわれるイギリスとの時差は、3時間。プレミアリーグの試合は、ちょうどウガンダ時間の夕方から夜にかけておこなわれる。人びとは衛星放送が入るレストランやバーに集まってビールとともに生中継で試合を観戦する。仕事を終えた、もしくは仕事がなくて一日を終えた男たちが、盛り場のプラスチックの椅子に腰掛けるのが、午後6時ごろ。複数台設置してあるテレビのうちの大半が、プレミアリーグの試合を映し出す。場所によっては、大きなスクリーンにプロジェクターをつかって試合を映し出すところもある。テレビやスクリーンの画面のみからしか光をとらない薄暗がりの中に、人びとは寄り添い、その光に目をこらす。試合がすすむにつれ、そして人びとが増えるにつれ、喉をうるおすアルコールも手伝ってその場の興奮が高まっていく。点数が入った瞬間はもちろん、入りそうな瞬間も、人びとの叫び声と拍手とで、ぐわっと盛り場は振動する。9時を過ぎると、男女が連れ立ってやってくる。デートがサッカー観戦になることは少なくない。女性だってつきあいで来ているわけじゃない。カレシに合わせることなく、自分の好きなチームを固持して、応援する。0時過ぎのクラブでも、流行りの音楽ががなり立てる中、薄型の液晶テレビ画面にプレミアリーグは放映され続ける。今晩のハイライト特集を見て、身体が熱くなればホールに踊りに行けばいいのだ。

盛り場で、人びとがサッカー観戦をしている間、もしくは観戦後に繰り広げられるのは、ステージをつかってのショー・パフォーマンスである。そこにもしっかりサッカー人気は顔を出す。プレミアリーグの中でも強い人気を誇るのは、「アーセナル」と「マンチェスター・ユナイテッド(通称マニュ)」。往年のライバル「阪神」と「巨人」のような、冗談半分、しかし半分本気の敵対関係がサポーターのあいだに存在する。この2つのチームにむけて、ウガンダの歌手たちは応援歌をつくっている。この応援歌をつかって、ショーをおこなう若者たちはサッカーの熱で沸く盛り場をさらに盛り上げていく。

盛り場の前においてある看板
〈プレミアリーグの試合を2試合観戦したあと、ショー(KAREOKE)が始まる。今夜のプログラムだ。〉

流れはこうだ。2人の青年が、2大チーム「アーセナル」と「マニュ」のファン代表として登場、それぞれ、自分のチームの方が強いと、言い合う。「アーセナル」代表が「アーセナルの人!!」と声をかけると、客席から「やー!!」との声とともに拍手。腕を振り上げる者もいる。次に「マニュ」代表が「マニュ!!」と叫ぶとやはり騒がしい反応が返ってくる。そして「アーセナル」の応援歌が鳴り響き、「アーセナル」側のパフォーマーが、歌を歌い始める。

♪アーセナルよ、立ち上がれ、俺たちもうそつきたちが倒れるまで、やってやろう。

すると、客席から、「アーセナル」をサポートする人びとがステージにむかって列になり、歌っているパフォーマーにチップを渡しに行く。「アーセナル」の歌が終わると、今度は、「マニュ」側の青年が、歌いだす。

♪マンチェスター、マニュは、自分のチームだ。自分が選んだところ、なぜなら真実が十分、完璧にある。このチームは、そんなところだ。俺たちが蹴った球を蹴るんだ、キョウダイよ、ちびってはいけないぞ。

すると、「マニュ」側のファンが次々と出てきて、パフォーマーに群がってチップを渡す。普通のチップが500、1,000シリングの中、10,000シリングをポンと渡してしまう陽気なおじさんもいる。バーでのビール1本(300ミリリットル)が2,000シリングほどだから、だいぶいい金額だ。最後に、どっちのパフォーマーが、つまりどちらのチームが多くお金を集められたかを数える。人びとは、全身を高揚させて結果を見守る。数えている最中にも「ちょっと待って」と割り込んで札を捧げるへべれけのおっさん、ちょんちょんとパフォーマーのズボンの端をつかんで、お金を握らせる若い女の子。勝敗が決まっても、けんかになったりすることはなく、「わ〜」となんとなく叫び声があがり、喜びも悔しさもかろやかにレストランの騒がしい空気に昇華されていく。集まったチップを握り締め、パフォーマーたちがバックステージへ消える。客席からのわらわらとした拍手、楽しげな笑い声、酔ったおっさんの千鳥足。そして、チップはすべてステージにいたパフォーマーたちの懐へと入る。かれらにとって、時々実施するこのパフォーマンスで手に入れるお金は、一晩のショーで手にする報酬の何倍もの値となる。きっと、楽屋でほかのパフォーマーたちにビールでもたかられることだろう。そして、友人から催促されていた借金の返済に成功することだろう。

盛り場のバカ騒ぎ
〈ステージの上のパフォーマーにチップをわたしたり、客席で踊ったり、ショーのあいだ、客も大忙しだ。〉

ふと、このカンパラで、来年1月の大統領選を前に、いくつかの騒ぎが起こっていることを思い出す。強烈な出来事のひとつには、現政権と対立しているガンダ王国の聖地、世界遺産にも指定されていたガンダ王の墓が今年3月に全焼した事件も挙げられる。カンパラを含むウガンダ南部において多数派のガンダと、政府側のニャンコーレを含む西部の民族出身の人びととの間の確執がさらに表面化することは予想される。現在カンパラには、ガンダが半数を占めるものの、さまざまな民族背景を持つ人びとが混在して生活している。「プレミアリーグ」への熱は民族などさらりと超越したところで沸いている。盛り場に集まる人びとも多様な背景をもつ人びとのはずだ。「プレミアリーグ」で活躍する白人、黒人、アジア人を讃えて、自分のことのように自慢するカンパラの人びと。かれらは、隣で同じチームを応援する友人、違うチームを応援する友人に対しても、社会状況が変われば互いがもつちょっとした差異を超えられず、その差異に怯えてしまったりするのだろうか。

サッカー人気を利用したパフォーマーたちのたくみな演出に、まんまと笑顔でのせられている客たち。「あほやな〜」と思いつつ、とてもほがらかで心地よい疲労感が広がる。カンパラの盛り場をあとにする。時間は、午前3時。カンパラ、騒がしい都であれ、夜中まで、ずっと。

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。