油たっぷりの魅力(ガボン)

松浦 直毅

お腹まわりと健康が気になる私は、スーパーで油を買うとき、「カロリー・オフ」とか「コレステロール・カット」という言葉につい惹かれてしまう。料理をするときには、油をひかえめにしたり、「余分な油」をわざわざ取りのぞいたりする。しかし、私が調査をしているアフリカ中部のガボン共和国の村落では、油(脂)は貴重である。

「森の民」として知られる「ピグミー」は、現在では定住化・農耕化が進んでいるとはいえ、熱帯雨林で狩猟採集にたよった生活を営んでいる。「獣肉」というと、脂がしたたる様子を想像する方がいるかもしれないが、彼らが狩猟する野生動物は、商業化された家畜とちがって、脂分がそれほど豊富なわけではない。そのため、肉の脂は貴重なごちそうであり、おいしさを語るときに脂の量が基準となることもある。村でもらった肉を使って自炊していたときに「アクとり」をしたところ、おいしいところをわざわざ捨てるとは何事かと怒られたものである。

料理用の油も貴重で、商店で売られている植物油を買うことはなかなかできず、アブラヤシからとれるヤシ油を集めるのも重労働である。私がお土産に料理油を買っていくと、村中で分配され、ドバドバとぜいたくに使ってまたたく間に消費される。

彼らのおかずは、基本的に鍋で煮込んだスープである。肉や魚をブツ切りにして鍋にほうりこみ、水、塩、トウガラシを入れて、やわらかくなるまで長時間煮込む1。そのため、「炒めもの」にお目にかかることは、実はほとんどない。フライパンも村では見たことがない。しかし、油が豊富にあるときには、油をたっぷりと鍋にひいて、食材を香ばしく炒める。

料理の風景
 

たとえば、おかずの定番であるキャッサバの葉は、細かくつぶしてじっくり煮込んで調理されるのだが、はじめにヤシ油や植物油で炒めた方が断然おいしい。米も同様で、油で炒めてから水を加え、グラグラと水がなくなるまで炊く。プチトマトのようなナス科の野菜は(トマトはナス科ナス属なので、おかしな表現だが)、油との相性がよく、炒めものが最適である。イモムシ(ガやチョウの幼虫)は、タンパク質と脂質を豊富に含んだ優良食材で、アフリカでは多種多様に食べられているが、これもやはり、油で炒めるとカリッとしておいしい。

イモムシのヤシ油炒め
 

彼らがおこなうたき火での調理は、火力が必要な炒めものにも向いているだろうし、主食のキャッサバやプランテンバナナは、どちらかというとパサパサしていて油とよく合う。油が貴重なこともあって、村にいるときに油たっぷりの料理が出てくれば、大よろこびで皿についた油まであまさず食べてしまう。

油が好きなだけ使えるために油の取りすぎが気になって、挙句に油をひかえなければならなくなるという私の生活は、何と不健康なことだろう。「料理が面倒だから今日は炒め物にしよう」などというのは、何とぜいたくなことだろう。村で食べた油料理のおいしさを思いだしながら、食生活を見つめ直し、油と上手につきあっていきたいと思う。

1. 煮こみ料理については、大石高典氏によるコラムを参照。
煮る技術が支える熱帯林の食生活(カメルーン)
2. キャッサバ料理のレシピは、アフリクックに掲載されている。
キャッサバ若葉の煮物