あなたのことが好きな理由

桐越仁美

カカオ畑の間を走るトロトロ(乗り合いバス)に揺られながら、私はイブラヒムとハサナと話をしていた。私が投げかけるありとあらゆる質問に、二人は真剣に答えてくれていた。ふと気になって「ふたりはどうしてこんなに私に良くしてくれて、質問にも一生懸命に答えてくれるの?」と聞いてみた。ふたりは私がガーナで調査を始めた時からずっと付き合いのある兄と妹のような存在で、これまでたくさん甘えてきた。良くしてくれること、何でも教えてくれることを当然のように受け取ってきたけれど、異国の人間にここまで親切にするのって決して当たり前のことではないよな、と思ったのだ。

私の質問に、ハサナはなんの躊躇いもなく「そんなの、ヒトミが私たちのこと好きでいてくれるからに決まってるじゃない!」と答えた。「ヒトミが私たちのこと好きでいてくれるから、私たちはあなたのことが大好きだし、いろいろしてあげたいって思うのよ!」とはにかんだ笑顔で言った。私はこの時のきゅーんとした感情をどう表現していいのかわからず、ぎゅっとハサナを抱きしめた。「でも私、みんなのこと好きだけど、そんなこと言葉にして伝えたことあったっけ?」と私が言うと、イブラヒムは「何度もガーナに来てくれるのが、きみが僕らを好きでいてくれることの何よりの証拠じゃないか」と言った。

写真 ガーナの妹ハサナとは最近あまり会えていないが、SNSを通じて互いの子どもの成長を見守る仲だ

「好き」は相手に伝わり、相手がそれに応えてくれることで、「好き」は連鎖反応的に増大していく。この出来事はもう11年も(!)前のことだけど、この時のきゅんは忘れられない。この会話を通じて、ふたりのことがさらに好きになった。ちなみにここでハサナが使ってくれた「大好き」は「Love」という英語で表現されていたが、初めてイブラヒムに会った時の思い出も「大好き」の意味での「Love」につながる。

イブラヒムと出会ったのは、初めてのガーナに来た時で、調査地も決まっていない時だった。調査地の目星をつけた私は、途中で知り合ったイブラヒムに「あなたの村で調査したいんだけど、来週そちらに行ってもいい?」と電話した。イブラヒムは「もちろんだよ!僕は君のことが大好き(I love you)だからね。いつでも歓迎だよ!」と言っていた。その時の私はイブラヒムのことをよく知らないし、タクシー運転手なんかにもよく同じこと(I love you)を言われていたので、「え、これ口説くつもりかなぁ…?めんどくさいなぁ」と思った。しかし、電話番号を知っているのは彼だけだから、仕方なく彼のもとに向かったのだった。

しかし、村に到着すると、下心のようなものは彼からは一切感じなかった。人に紹介するときは「ヒトミは妹なんだ。よくしてくれ!」と言い、「好きだから結婚して」と私に言い寄ってくる人は遠ざけ、あとで「初対面で性格もわからないのに、どうして求婚なんかできるんだ。ああいうやつは信用ならない」と文句を垂れた。これまで何度となく見知らぬガーナ人に「I love you」と言われ飽き飽きしていた私であったが、「イブラヒムの使っていたLoveって人として好きって意味だったんだ。完全に勘違いしていたな…」と反省した。

またある日、イブラヒムは将来の夢を語ってくれた。「日本のバイクや車を輸入する商人になりたいんだ。日本の製品は品質がいいのに、長持ちする。バイクや車だけじゃない。道路も橋も、すべてにおいて同じだ。だから日本の製品は絶対に需要がある。そしてそういうものを生み出す日本人は、金儲けだけじゃない、相手のことを考えてくれているって感じるんだ。だから日本人が大好きだ。ガーナ人はみんな日本人が大好きだ」彼は熱く語ってくれた。

この時、私はようやく、あのときのI love youは、私というよりも日本人が大好きという意味だったということを理解した。私がイブラヒムにすんなりと受け入れてもらい、順調に調査を進めていた背景には、日本人が相手を思い、そのうえに築いてきた信頼があったのだと、壮大な物語に思いを巡らせた。キュンとは少し違うけど、じーんとした感動を覚えた。今の私は、先人に見習い、未来の日本人がガーナでよい待遇を受けられるための礎になりたいと思っている。「ガーナの人たちが大好き!」という思いとともに。

写真 イブラヒム(右)とはもう13年の付き合い。知り合って5年目にして初めて一緒に写真を撮った。